講義No.12585 化学

化学反応を可視化―ミクロな世界の一瞬をスローモーションで見る

化学反応を可視化―ミクロな世界の一瞬をスローモーションで見る

実はよくわかっていない化学反応のプロセス

「酸素と水素が結合すると水ができる」という現象を、2H₂+O₂→2H₂Oという化学反応式で表します。いろいろな物質の原子、分子が、「化学反応」によって結合したり分解したりすることを利用して、今ではさまざまな物質が作られ、産業や生活に利用されています。しかし、実はこの化学反応式の矢印の部分で何が起こっているのか、つまり、分子のどの部分がどう切り離されて、あるいはどういう形で結合して、などの詳しいプロセスはよくわかっていないのです。

ミクロの世界の一瞬の現象

化学反応の過程では、電子が飛び出したり、分子の形が変わったりすることは、理論上わかっています。しかし、分子の大きさは数Å(オングストローム)程度(1Å=10⁻¹⁰メートル)、変化の速度は100フェムト秒程度(1フェムト秒=10⁻¹⁵秒)と、ミクロの世界でほんの一瞬で起こることなので、それを人間の目でもわかる形で可視化することは、これまでできていませんでした。
現在、この化学反応の過程を実際に観測し、スローモーション動画にしようという研究が進んでいます。変化の様子を、非常に短いシャッタースピードで連続撮影し、それを動画にするようなイメージです。

化学反応をスローモーション動画に

ミクロの世界の分子を見るためには、分子に電子線を当てて散乱した電子を観測することで分子の状態を知る「電子回折」という手法がよく使われています。また、電子線の代わりにX線のレーザー光線を当てて観測する方法もあります。
最先端の研究では、化学反応中の分子に超高速の電子線と、超短パルスのレーザー光線を同時に当てることで、いわばシャッタースピードを上げた、ブレやピンボケのない状態のスローモーション動画を作れることがわかってきました。現段階では、静止している分子での実験が成功しており、近い将来には、動いている分子で、化学反応の実態を人の目で見るという、人類初の体験が期待されています。

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東京都立大学 理学部 化学科 教授 歸家 令果 先生

東京都立大学 理学部 化学科 教授 歸家 令果 先生

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メッセージ

身の回りの「不思議」に興味を持ってほしいです。例えば、湯気はどうしてこういう動きになるのかなど、私たちが住んでいる世界はどうなっているのかを考えるのが、自然科学研究の基本だからです。興味を持ったら、インターネットで調べるのもいいですが、雑学的な知識を得てわかった気になることより、自分が本当にその原理を理解できたのかの方が大事です。調べていくうちに、「これを本当に理解するためには、大学に行ってたくさん勉強しなきゃ」という意欲につながるかもしれません。

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