動物が秘めた「免疫」の可能性を探る
体を守ってくれる「抗体」は、どこからくる?
私たちの体には、病原菌やウイルスなどの異物(抗原)が体内に入ってきたとき、それと闘って追い出してくれる「免疫」というシステムがあります。この抗原と闘ってくれるのが「抗体」で、免疫が未熟で生まれてくる赤ちゃんにこの抗体を提供しているのが母乳です。人間の場合、母親のおなかの中で胎盤からも胎児に抗体が送られますが、牛や豚などの家畜は、胎盤が厚いために抗体を送ることができず、母乳を通してしか赤ちゃんに抗体を提供できません。ですから、生後に母乳を飲めなかった赤ちゃんは、ほぼ確実に死んでしまいます。つまり哺乳動物にとって、乳房は子どもに栄養を与えるだけでなく、抗体をも提供する重要な臓器なのです。
腸にある「免疫細胞」が母乳の中の抗体を作る
しかしそもそも、抗体を作ることができるのは免疫細胞だけであり、乳房の中にある母乳を作る細胞は抗体を作り出すことはできません。では、なぜ母乳に抗体が含まれているのでしょうか? 実は、抗体を作る免疫細胞が、授乳中に限り、母乳が作られる乳房に集まってくるのです。免疫細胞は体のあちこちに存在していますが、特に腸にはたくさんの免疫細胞が集まっています。つまり、異物がたくさんいる母親の腸の中で教育を受けた免疫細胞が、授乳中に乳房に集まり、そこで抗体を作ります。その抗体入りの母乳を飲んだ赤ちゃんの腸で、抗体が働いてくれるのです。
畜産動物の研究に秘められた可能性とは?
授乳中の母親の腸の状態をきちんと管理できれば、良い抗体が多量に作られ、母乳を飲んだ赤ちゃんはより元気になるということが可能になるかもしれません。畜産農家にとって、生まれてきた牛や豚の赤ちゃんが一頭でも死んでしまうと、経済的に大きな損失となります。この研究が進めば、より元気な家畜の赤ちゃんが育つことになり、農家にとっては、利益を上げることにつながります。さらに、同じ哺乳動物である人間にもさまざまに応用できる可能性を秘めているのです。
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先生情報 / 大学情報
東北大学 農学部 生物生産科学科 応用動物科学コース 教授 野地 智法 先生
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