視覚障がい者の首への負担を軽減するために
首への負担は幼稚園児の体重分
スマートフォンの画面を見るとき、多くの人は首を下に傾けます。アメリカの医師、ケネス・ハンスラージによる研究で、頭の重量が約5kgある人が首を30度下に傾けると首の周りに約18kgの負担がかかることが明らかになりました。これは幼稚園児の体重とほぼ同じ重さで、首の曲がる角度が大きければ、さらに負担も増えます。
特に視覚障がいのある人は首をかなり下に傾けて文字を読み書きする機会が多く、首の負担が大きい可能性があります。日本人は80歳以上のほぼ全員が白内障になり目が見えにくくなるといわれているため、視力障がいのない晴眼者(せいがんしゃ)にとっても無関係ではありません。
視覚障がい者の姿勢を測る
患者の状態を観察して症状を分析する理学療法の観点で、視覚障がい者の姿勢調査が行われました。調査対象は見える範囲が狭くなる視野狭窄(きょうさく)のような視野障がいのある人と、弱視などの視力障がいのある人の中で普段から文字を読み書きしている人です。これらの人は首を傾けがちで体への負担が大きいと考えられます。調査対象者に紙やパソコンなどで文字を読み書きしてもらい、目と文字の距離、姿勢、首の角度などを研究者が計測しました。さらに質問紙などで、姿勢のつらさや首の痛みといった主観的なデータが集められました。
首の傾きが大きい環境は?
視野障がいのみの人の場合、首を下に傾ける角度は晴眼者とほぼ同じですが、狭い視野のせいで顔や首を横に動かしながら文字を読む傾向があります。また、首や頭の痛みや姿勢のつらさを感じやすいことが明らかになりました。反対に、視力に障がいのある人の場合、机の上に置かれた本やノートパソコンなど首の角度や距離を調整しづらいものを読み書きするときは、首の傾きが晴眼者の倍以上に大きくなっていました。一方でタブレット端末やスマートフォン、デスクトップパソコンなどを使うと首の角度は晴眼者と同程度になりました。作業環境を工夫すれば、首への負担を軽減することはできるのです。
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筑波技術大学 保健科学部 保健学科 講師 中村 直子 先生
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