ある時は磁性体、またある時は超伝導体、変幻自在のかご状物質

ある時は磁性体、またある時は超伝導体、変幻自在のかご状物質

かご状物質の性質は変幻自在

超伝導研究の最先端では、多数の原子が形作ったかご構造の中に別の原子(希土類イオンなど)が入った、新しいタイプの物質が注目を浴びています。
超伝導とは、電子と電子がペアになって、物質内をスルスルと摩擦なく流れる現象ですが、上記のかご状物質では、かご内の原子の振動が電子のペアの形成に役立つことが明らかになってきました。一方、希土類イオンは磁石の源になる「f電子」と呼ばれる電子を持っているので、原子の組み合わせを変えることにより磁性体になったり超伝導体になったりします。かご状物質は変幻自在のユニークな性質を備えているのです。

新しい物質を合成する方法

フラックス法と呼ばれる物質合成方法があります。まず、原材料と一緒に、スズのような低い温度で液体になる金属を石英管内に閉じ込めます。これを電気炉の中に入れて高温にすると、液体になった金属中に原材料が溶け込みます。その後、1カ月かけて温度を徐々に下げていくと、塩水中に塩の結晶がゆっくりと成長するように、目的物質の結晶が液体金属中に成長してきます。最後に、余計な液体金属を遠心分離により取り除きます。
指先ほどの小さな電気炉に原材料を入れ、巨大なピストンでこれを加圧しながら結晶を育成する手法も使います。地球内部そっくりの高温高圧の環境では、かごの中に入り難い原子を強制的にかご内に入れることができるからです。

新しい物質は新しい性質を持つ

このように、自然界には存在しない原子の並び方や組み合わせを持った物質を人工的に作り出し、その性質を調べ明らかにする研究分野が「物性物理学」です。新物質の合成では、どのような原子をどのような割合で組み合わせるか、温度を何度にして合成するかなど、経験や知識を頼りに試行錯誤を繰りかえす地道な作業が必要となります。しかし、多くの場合、新しく合成された物質は新しい性質を備えているものです。さらに時折、これまでの常識を覆す新現象が突然現れるのです。物性物理学は、わくわくする研究分野なのです。

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東京都立大学 理学部 物理学科 教授 青木 勇二 先生

東京都立大学 理学部 物理学科 教授 青木 勇二 先生

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物性物理学

メッセージ

大学の物理学コースに入学すると、3年生までは主にインプットの段階で、すでに確立された科目を学びます。しかし、4年生になり卒業研究がスタートすれば、いよいよアウトプットの段階。最先端の研究に触れながら、答えのない問題にチャレンジします。だから、学会で発表できるような新発見のチャンスが4年生でもあるのです。実際に私たちの研究室からもそんな発見が出ています。4年後、さらには大学院でわくわくする研究生活を送りながら思う存分プレーできるように、理数系のさまざまな基礎力を今から着実に身につけましょう。

先生への質問

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