日本の実像を描く、サブカルチャーとしてのミステリー

日本の実像を描く、サブカルチャーとしてのミステリー

サブカルチャーが発信する日本のイメージ

日本を代表するサブカルチャーと言えば、アニメやマンガが挙げられます。ミステリー小説(推理小説)もまた、純文学(カルチャー)に対して大衆文学(サブカルチャー)と見なされてきました。実際、海外からの留学生は、日本のサブカルチャーに大きな関心を持ち、アニメやマンガとともにミステリー小説も熱心に読むようになっています。
世界的に評価される日本のサブカルチャーですが、その特有の世界観は、日本という国のイメージを狭めて伝える危険性をはらんでいます。そもそも、日本のアニメやマンガが生まれた文化的下地は海外から来たものなので、基本的には無国籍な文化です。それが、日本固有の文化であるように評価されてしまう状況は、冷静に見つめ直す必要があります。

サブカルの一翼を担うミステリー小説

かつては日本文学が担っていた文化的立ち位置を、現在はサブカルチャーが果たしています。ミステリー小説も、その一翼を担っていると言われています。旧来のミステリー小説では、トリックに重きが置かれたため、人間を描く場合、底が浅く記号的で、リアルではないと批判されました。しかし、現代のミステリー小説は、犯罪の動機に現代の人間関係の縮図がよく描き出されています。つまりミステリーは、アニメやマンガ以上に、日本という国の実像を描き出していると言えるのです。

ミステリーが描き出す日本の現実

人の死を扱うことは、文学の永遠のテーマと言えます。現在、清涼院流水というミステリー作家は、数百万人という殺人が起きる小説を書いています。そんなばかげた大量殺人事件が起きることは、現代の日本ではあり得ません。しかし、作者は95年の阪神・淡路大震災によって実家が全壊し、故郷の惨状を目の当たりにしました。そうした経験が、作品の内容に影響を及ぼしていると考えられます。ミステリー小説で描かれる空想的な世界にも、社会の現実が反映されているのです。

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北海道大学 文学部 人文科学科 准教授 押野 武志 先生

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文学、社会学

メッセージ

高校時代、体育会系だった私は、硬式野球部で甲子園をめざしていました。しかし進学の際、理系か文系かで迷った結果、「人生とは何かを考えたい」と文学部を選び、ここまできたのです。出発点は自分が興味を抱いたものでしたが、1980年代に近代的な価値観を引っくり返すポストモダンの思想が流行したことで、自分の考え方の狭さを知りました。それは、さまざまな表現に触れ、感性を広げることができたからです。きっかけは人それぞれですが、自分と違う考え方や感性を発見する喜びを知ってほしいですね。

北海道大学に関心を持ったあなたは

北海道大学は、学士号を授与する日本最初の大学である札幌農学校として1876年に創設されました。初代教頭のクラーク博士が札幌を去る際に学生に残した、「Boys, be ambitious!」は、日本の若者によく知られた言葉で本学のモットーでもあります。また、140余年の歴史の中で教育研究の理念として、「フロンティア精神」、「国際性の涵養」、「全人教育」、「実学の重視」を掲げ、現在、国際的な教育研究の拠点を目指して教職員・学生が一丸となって努力しています。