「サバにマグロを生ませる技術」の3つのブレイクスルー
別種の魚に生殖細胞を移植する
マグロの生殖細胞をサバに移植し、サバにマグロの卵子と精子をつくらせる技術の研究が進められています。この技術は日本人が大量のマグロを安く食べ続けるためというより、現在のマグロ養殖業の負担を少なくするために、そして何より、絶滅に瀕している多くのマグロたちを、再び世界の海に帰すためにこそ、活用される技術なのです。太陽の光が降り注ぐ海原に、メタリックブルーに輝くマグロを復活させることこそ、この研究の目標と言えます。
免疫の未熟な赤ちゃんサバに移植する
この技術の開発にあたり、これまで3つの壁を突破してきました。最初の壁は移植にともなう拒絶反応です。生き物は異物が体内に入ると、免疫機能が働いて拒絶反応を示します。これを回避するために、免疫系が未発達の赤ちゃんサバ(ふ化後2週間以内)に移植すればよいことに気づきました。これが第1のブレイクスルー(突破)です。
ところが、ふ化直後の赤ちゃんサバは小さすぎて、移植先の生殖腺がどこにあるのかわかりません。そこで、生殖細胞がもともともっている性質を利用することを思い立ちました。それは、生殖細胞が生殖腺を探しあてて、自分でその中に入っていくという、よく知られた性質です。赤ちゃんサバのおなかに別の魚からとってきた生殖細胞を移植するだけで、自然にサバの生殖腺に入ってくれるのです。これが第2のブレイクスルーです。
第3のブレイクスルーは、サバに移植する生殖細胞が、始原生殖細胞ではなく精原細胞でよいことを発見したことです。始原生殖細胞は精原細胞や卵原細胞になる前の生殖細胞で、赤ちゃんにしかありません。一方、精原細胞は成長したオスならどの個体でも持っています。しかも精原細胞は、オスに移植すれば精子をつくり、メスに移植すれば卵子をつくることもわかりました。マグロのオスが1尾いれば、精子も卵子もつくれることになります。
突破すべき壁はまだまだありますが、世界の絶滅寸前の魚たちの保全のため、この技術の確立が期待されているのです。
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先生情報 / 大学情報
東京海洋大学 海洋生命科学部 海洋生物資源学科 教授 吉崎 悟朗 先生
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