被災地の人々の生活を一刻も早く日常に戻すための「復旧工学」
橋を「作り置き」して災害に備える
大雨による洪水や土石流で橋が損壊し、通行できなくなっている映像を見たことがあるでしょう。山間部に行くと、「橋が通れなくなると、食料品や日用品の買い物さえ困難になる」といったエリアが多数あります。一刻も早く復旧しなければなりませんが、鉄鋼メーカーや土木工事の会社が現地に集まり、測量して設計図を書いて、という従来の工事方法では、完成までにかなりの期間を要します。そこで研究が進んでいるのが、橋の「上部構造(人や車が通行する部分)」を事前に作っておき、災害で橋が損壊したら「作り置き」の橋を架設して、人々の往来を可能にする手法です。
伸び縮みする仮設橋
一定の長さと幅がある構造物を、そのままの形で作り置きすると、保管も運搬も大変です。そこで注目されているのが、構造物を折り畳んで保管・運搬し、現地で展開する方法です。特に、伸び縮みするマジックハンドのアームのような「シザーズ構造」が、橋の復旧に適していると考えられています。もちろん、通常の橋ほどの剛性・耐久性はありませんが、被災地近隣の人々の生活を、できるだけ早く日常に戻すための「復旧工学技術」として有望視されています。
「仮設」だが剛性・耐久性も高い方がいい
日本国内にはおよそ70万の橋梁があり、その4分の3ほどは長さ15メートル未満です。そこで、短めのシザーズ構造橋を複数準備しておき、損壊した長さに合わせて現地で組み合わせる方法も検討されています。同時に、「仮設橋」ではあるものの、復旧作業を行う重機などが通行できるくらいの剛性を持たせたり、一定年数以上使える耐久性を持たせたりする研究も進んでいます。
国土交通省の調査によると、国内にある橋の半数以上が、2028年までに建設後50年を超過することがわかっています。自然災害が激しさを増す近年、橋の復旧の迅速化は、各地の自治体と研究者とが力を合わせて取り組まなければならない「待ったなし」のテーマだと言えるでしょう。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
信州大学 工学部 水環境・土木工学科 助教 近広 雄希 先生
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