3次元の仮想空間で、握手をすることはできるか?
仮想空間で欠けている主体感
「メタバース」などによって注目を集めている、コンピュータで構築された3次元の仮想空間ですが、現時点では、まだ多くの課題があります。まず、自分自身の分身(アバター)が仮想空間に存在している状態を、外から見ることはできますが、自分自身がそこにいるという主体感(センス・オブ・エージェンシー)を持って入り込むことは、まだ十分ではありません。また、仮想空間内で何かに触ったり感じたりすることも充分にはできていません。
視覚と圧覚、時間のずれを補うために
現実世界で遠く離れた場所にいる二人が、仮想空間で会って握手をできるようにするということを考えてみましょう。まず必要なのは、仮想空間の中にその人自身がいると感じられるようにするための工夫です。解決策としては、その人の体の映像を撮影し、その素材を基にリアルタイムマッピングを行い、仮想空間内でその人自身の体が見えるようにする(自己視)方法が考えられます。さらに、仮想空間内で相手と握手をした時、手を握り合った感触を感じ取れるようにするための工夫です。この点に関しては、二人の手に圧覚制御データを検出できるグローブをはめ、手を差し出して握り合った感触をリアルタイムでフィードバックする方法があります。
遠く離れた場所にいる人同士が仮想空間内で出会う場合、通信やデータ処理の遅延によるタイミングのずれが発生するという課題もあります。例えば、仮想空間内でじゃんけんをしようとしてもうまくできません。このため、人工知能(AI)を用いた予測制御を行うなどの、ずれを解消していく工夫が必要となります。
仮想空間の技術を現実社会に結びつける
このような技術の研究開発は、将来、遠隔での医療やリハビリなどの分野への応用も期待されています。3次元の仮想空間の中で、私たちが完全な一体感を感じられる体験をできるようになれば、現実の社会の中でも、新しい可能性の扉が次々と開かれていくことになるでしょう。
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追手門学院大学 心理学部 心理学科 教授 丸野 進 先生
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