化粧品の新素材開発にコンピュータが果たす役割

化粧品の新素材開発にコンピュータが果たす役割

CGの人間の顔がリアルになった理由

CG(コンピュータ・グラフィックス)で表現される人間の顔は、以前よりもかなりリアルになっています。これはたんに表現技術が向上したというだけではなく、人間の皮膚に当たった光の散乱の研究が進んだ成果です。生体組織に光を当てると、光はそれらの内部で複数回の散乱を受けた後、出射します。この現象を光の多重散乱と言います。光の散乱はボールがいろいろなところにぶつかりながら進んでいくようなものなので、その行路を計算機の中で再現することができます。この計算結果から情報をうまく取り出すことで、複雑な物体のもつ光学的な特性を知ることができます。
この技術を化粧品の開発に応用しようという研究があります。最近では、化粧品などの用途にナノ粒子などのさまざまな粉体が利用されるようになってきています。しかし、新開発された微粒子の構造は複雑で、従来の理論式ではその光学特性を求めることができません。そこで、微粒子粉体による光散乱やそれを皮膚に塗ったときの見え方の変化をコンピュータでシミュレーションすることで、化粧品に使用する微粒子の適切な大きさや素材を突き止めます。コンピュータに複雑な計算をさせることで、短期間で効率的に化粧品を開発しようというのです。

女性の美の追求に貢献するコンピュータ

実はほとんどの化粧品会社は、このような開発手法ではなく、多くの実験を繰り返し試行錯誤することでどんな微粒子にするかを決定しています。コンピュータを使えば、高度な製品開発ができるだけでなく、その中で実験シミュレーションができるので開発が容易になります。ただ、正確さを求めると計算に時間がかかり過ぎるという欠点があります。そこでスピードを重視するプログラムを作成し、化粧品開発の速度を速めることが課題となっています。
まだまだこれからの分野ですが、コンピュータは女性の美の追求にも貢献を始めています。

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先生情報 / 大学情報

九州工業大学 情報工学部 物理情報工学科 教授 岡本 卓 先生

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光工学系/情報工学系

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メッセージ

あまり知られていないのですが、日本国内の電子産業の中で、光産業は売上金額ベースで4割以上を占めます。製品で言えば、ディスプレイ製品やデジカメ・プリンタなどの入出力製品、ブルーレイディスクやDVDなどの情報記録製品、太陽電池、さらにセンサーや計測機器など幅広い領域にわたっています。しかも、電子産業全体は横ばいなのに、光産業は急速な伸びを見せています。ただ残念なことに、光産業に関わる研究者は足りないのが現状です。将来性が十分なだけに、多くの若い人に関心を持ってほしいですね。

先生への質問

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「情報工学」は、高度情報化社会の進展の中で、ますます必須知識・ 技術となっています。九州工業大学情報工学部は1986年 に創設された日本初、現在も国立大学法人で唯一の情報工学部で、2016年に創設30周年を迎えました。知能情報工学科、電子情報工学科、システム創成情報工学科、機械情報工学科、生命情報工学科の5学科があり、情報工学の学びを軸としつつ、各学科の応用分野に対する教育研究を進めています。特に、教育システムは、全学科がJABEEに認定され、世界的に通用するものであることが保証されています。