見えなかったものを見える化するジェンダー法史学
自由平等を得たのは誰か
フランス人権宣言は、すべての「ひと」と「市民」の自由平等を保障すると宣言しました。しかし、「ひと」にも「市民」にも女性は含まれていませんでした。近代市民社会では性別役割分担が強く作用し、政治や経済を担うのは男性に限られ、女性の居るべき場所は家庭とされたのです。女性が、「市民」として参政権や大学で学ぶ権利を獲得したのは20世紀初頭、父や夫の支配から脱して「ひと」としての尊厳を認められたのは1970年代以降のことです。
「ひと」から問うジェンダーの視点
法学や政治学などの近代社会科学は、いわば「強い」人間を前提として国家や社会を論じてきました。これに対して、ジェンダー視点から「ひと」を問い直すとかなり違った側面が見えてきます。近代市民社会の意思決定を担った「市民」とは、「中流以上の白人男性」であるだけでなく、「壮年期/健常者/異性愛者/家族責任を負う父親」に限られていました。多くの「ひと」が自分の意思では選びようのない属性のために「市民」から排除されたのです。「ひと」の多様性と「ひと」同士の親しい関係(家族など)の多様性を尊重し、公正な社会づくりに向けた国家や国際社会の課題を展望するのが、ジェンダーの視点です。
救済とエンパワーメントの学問
ジェンダー視点に立つ研究のうち、ジェンダー法学は「救済の学」であり、ジェンダー史学は「エンパワーメント(力づける)の学」と言えます。ジェンダー法学は、ハラスメントや性暴力などの理論構築に役立つ実践的な学問です。例えば、かつて夫の懲戒権とされてきた暴力をDVとして定義し、被害者を救済するための理論を打ち立ててきました。他方、ジェンダー史学は、歴史の中で女性が活躍した事実や、男女の性別役割分担がいつ作られたかなどの事実を明らかにしてきました。例えば、フランス革命の当初、女性は積極的に革命に参加していたにもかかわらず、革命が進むほどに政治から排除されていきました。女性排除が作られた過程を知ると、克服すべき課題も見えてきます。
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先生情報 / 大学情報
追手門学院大学 法学部 教授 三成 美保 先生
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ジェンダー論、法学、法史学先生が目指すSDGs
先生への質問
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