錯視で広がる視覚表現の可能性

錯視で広がる視覚表現の可能性

画面上のアニメーションは「錯視」の応用

テレビやパソコンの画面でアニメーションが動いて見えるのは「錯視」を応用したものだと知っていましたか? テレビやパソコンに映し出されている映像は、光の点の集合です。画面上では実際には何も動いていないのに、赤・青・緑の光の組み合わせで画像が動いているように見えるわけです。
錯視や錯覚は実験心理学の分野で、活発に研究が進んでいるテーマです。最近ではパソコンの発達により、動きや立体感も含めた、新しい錯視がどんどん発見されています。特に二次元の画像を脳で三次元的に変換するときに、どこかで視覚情報を補っていることによって起こる錯視は、注目を浴びています。
例えば、このページにある図を見てください。しばらく見つめていると、中央と周辺の円のどちらか、あるいは両方がゆらゆらと動いて見えるでしょう。このような「運動錯視」を使って、印刷物の平面上で電気を使わないアニメーションができないかという研究も進んでいるのです。

錯視は矯正できるのか

錯視にはいくつもありますが、代表的なものに見落としの現象が挙げられます。「人間は見ているようで、実は見えていない」という実験心理学の発見につながる現象です。
例えば手鏡で、自分の右目を見、次に左目を見るという運動を繰り返してみてください。鏡を見ている本人には自分の目の動きは見えないことでしょう。ところがほかの人たちにはあなたの目が左右に動いているのがちゃんと見えるのです。
このような見落としは、目が動く際の視野の混乱を避けるために、視覚の処理が抑制されて起こると言われています。また、動くものに注意を向けると、止まっているものが見えなくなることもあります。こうした見落としは交通事故の原因になる可能性が指摘されています。
しかし錯視はからくりを知っても矯正できません。人間がこれまで培ってきた知覚は容易に変えられないのです。人間の知覚の裏をつく錯視は今後もたくさん発見されるものと期待されています。

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千葉大学 文学部 行動科学科 教授 一川 誠 先生

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メッセージ

実験心理学は、実験によって得たデータを体系的に分析し、人の心理や知覚認知、行動のあり方を考えていく学問です。脳科学や認知科学などの分野とオーバーラップする部分もありますし、手法として統計学の考え方を使うこともあります。数学をはじめとする自然科学的なものの考え方に抵抗を抱かないことは大事ですが、難しく考える必要はありません。結局、人間に対する興味があって、それを調べていくというのが基本ですから。人間を幅広い視野で考えたいという意欲があるならば、どんどん面白い研究テーマを発見できるでしょう。

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