ミクロな視点からマクロな問題を明らかにする文化人類学
客家の文化が創られるとき
中国には、客家(はっか)と呼ばれる人たちがいます。かつて中華文明が栄えた中原(ちゅうげん)にいた人々が、戦乱を逃れて南の福建省や広東省に住み着いたというのが通説です。しかし近年では、もともと福建省や広東省の土着の人々とも言われています。彼らは土楼(どろう)と呼ばれる巨大な集合住宅で一躍有名になりました。世界文化遺産にも登録された土楼という住まいに、彼らは一族を単位として一緒に生活してきました。
これまでメディアなどでは土楼の中央に、祖先を祭る祖堂があるといわれてきましたが、実際に祖堂があるのは土楼の外で、そこで祭祀(さいし)が行われます。つまり、これまでユネスコを含む学術機関、メディア報道などでは「誤った」情報が発信され続けてきました。なぜでしょう? それは「描く側」の型に事例を当てはめてしまったからです。しかしその「誤った」情報は、場合によっては現地社会に受け入れられ客家の文化となっていきます。
文化人類学者の「仕事」
文化人類学者はこれらの変化を見逃しません。なぜなら、文化人類学者は2~3年間の長期にわたって、現地に入って一緒に生活するからです。これをフィールドワークといい、そこで得られた情報から人々の生活や文化を民族誌として記述します。民族誌で重要なのは、さまざまな事象を「部分と全体」から考えることです。なぜ彼らは一族を単位として生活しているのに、土楼の中央に祖先を祀らなかったのか、それは彼らの土楼内の細かな利用状況から読み取ることができます。
日本人とは違う客家の親族と住まい方
これまでの研究により、客家(を含む漢族)は日本人と違う親族組織をもつことがわかっています。例えば日本では、兄弟が結婚後も一緒に住み続けるというのはちょっと考えにくいですが、土楼という建物は生涯兄弟が(結婚後も)一緒に生活するように設計された建物です。土楼というミクロな事例を手がかりに、親族、家屋、表象(ひょうしょう)、社会、文化といったマクロな問題を考えることができるのです。
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先生情報 / 大学情報
山口大学 人文学部 准教授 小林 宏至 先生
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