ナノスケールの光化学で太陽光エネルギーを最大限に活用!
1分子・1粒子レベルの物質の特徴
光触媒や太陽電池などの「光エネルギー変換」は、脱炭素が求められるこれからの時代に必要な技術です。例えば光触媒は、太陽光を吸収することで触媒の中に生じるプラスとマイナスの電荷がそれぞれ酸化反応・還元反応を起こすもので、この酸化力・還元力が、汚れの分解や水素を製造する水分解に利用されます。
このような光エネルギー変換技術の実用化にあたっては、光と物質の反応効率の向上が欠かせません。そこで光触媒や太陽電池に使われる材料について、1分子・1粒子の動きに着目した研究が行われています。
水素を製造する新しい光触媒
光触媒による水分解は、二酸化炭素を排出しない「グリーン水素」を製造できる技術として注目されており、世界中で反応効率を上げるための研究が進められています。水分解の光触媒には二酸化チタンが多く使われています。しかし、二酸化チタンは白色で可視光を反射してしまうため、太陽光の吸収効率が高くありません。そこで着目されたのが酸化鉄の光触媒です。ヘマタイトとも呼ばれる酸化鉄はいわゆる赤さびで、身近で安価、安定した材料で、可視光を吸収できます。
ただ、酸化鉄の自然な結晶は構造が不規則で、せっかく発生したプラスとマイナスの電荷が一カ所にとどまり、すぐに再結合して消失してしまうという欠点がありました。これを補うのが「メソ結晶」という人工的な結晶です。メソ結晶はナノ粒子が規則正しく三次元に並んだ構造体で、配列のあいだを電荷が動きやすいため再結合しにくく、反応効率を上げることができます。
宇宙での水素製造も視野に
さらに、酸化鉄のメソ結晶は簡単に合成できるというメリットもあります。材料となる金属塩と有機溶媒を密閉して高温高圧にすると、規則正しい結晶が自然に成長していきます。
鉄は月や火星にも豊富に存在する元素です。まだまだ先の話ではありますが、酸化鉄の光触媒を使った地上はもちろん、宇宙での水素製造を目標にした研究開発も始められています。
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