創薬を強力サポート! 細胞内の分子を丸ごと解析する手法

創薬を強力サポート! 細胞内の分子を丸ごと解析する手法

顧みられない熱帯病の治療薬

熱帯地域に住む貧しい人々の間で流行しているデング熱などの熱帯病は、「顧みられない熱帯病」と呼ばれています。このような病気の薬の開発は採算が合わないため、民間企業である製薬会社は取り組むのが難しいのです。
こうした背景から、貧困層に安価な薬を開発し届ける手法として、すでにある薬の副作用を利用する「ドラッグリポジショニング」は有用です。そして既存の市販薬から熱帯病に効果があるものを探索する過程で活躍するのが、細胞の中の分子情報を統合的に解析する「マルチオミックス解析」です。

マルチオミックス解析で細胞全体を知る

オミックスとは、細胞の遺伝子を網羅的に解析するゲノミクス、RNAから遺伝子の発現量を解析するトランスクリプトミクス、細胞の全タンパク質を解析するプロテオミクスなど、各視点で細胞の分子全体を解析することです。これらを組み合わせた解析をマルチオミックス解析といいます。
研究対象となる病気の細胞のオミックスデータは、オープンなデータベースから取得できます。そこから一つ一つ丹念に調べて条件に合ったデータをピックアップし、マルチオミックス解析を行って病気の細胞のプロファイルを作ります。これを正常細胞のプロファイルと比較すると、例えば遺伝子Aの発現量が増えているというように、病気の特徴がわかります。一方で、市販薬のデータもマルチオミックス解析でプロファイルを作り、そこから遺伝子Aの発現を抑える作用のある薬が見つかれば、それがドラッグリポジショニングの候補になります。

希少疾患の薬開発にも

発展途上国では医療体制が整っていない地域も少なくないため、詳細な検査をしなくても処方できるような、いくつかの熱帯病に共通して効果がありそうな薬も、マルチオミックス解析で見いだされています。また、患者数が少ない希少疾患の創薬も製薬会社が取り組みにくい領域であるため、同様にドラッグリポジショニングでの創薬が期待されています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

山陽小野田市立山口東京理科大学 工学部 数理情報科学科 准教授 雨宮 崇之 先生

山陽小野田市立山口東京理科大学工学部 数理情報科学科 准教授雨宮 崇之 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

生命情報学、計算生物学

先生が目指すSDGs

メッセージ

情報系の学問に数学は不可欠で、本学の数理情報科学科の受験科目でもあることから、数学に力を入れている学生は多いのですが、同様に理科も一生懸命勉強してほしいと思っています。一つには、本学科のカリキュラムに生物と物理があるので、高校で勉強しておくと履修に苦労しません。また、私も情報科学を用いて生物学の研究をしていますが、情報科学を使って何かをしようというときに研究の幅が広がるからです。また情報科学そのものを研究する場合にも、理科の知識はいろいろな面で役に立つはずです。

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山陽小野田市立山口東京理科大学は「確かな基礎教育」を掲げ、基礎学力を育成する体系的な教育を行っています。2016年4月、公立大学法人へと移行、2018年4月西日本初の公立の薬学部を設置し、工学部・薬学部の二学部体制となりました。東京理科大学の姉妹校として、基礎学力を重視した実力主義の教育を受け継ぎ、工学・薬学の専門的な学術を教育・研究するとともに、地域産業界・医療界で活躍する人材を育成します!