すい臓がんに効く抗がん剤をニトロ化合物から作り出す
すい臓がんの実情
すい臓がんは、日本ではがん患者数が4番目に多く、診断されてから5年後の生存率が10%未満の深刻な病気です。早期発見が難しく、発見した時には遠隔転移が起きていて手術が不可能なことがほとんどであるため、多くの場合は抗がん剤治療を行います。すい臓がん以外のがんでは、抗がん剤により完全にがんがなくなるケースも珍しくありません。しかし、すい臓がんの場合は抗がん剤の効き目が悪く、投与しても余命があまり伸びないのが現状です。
ニトロ化合物の可能性
抗がん剤が効きにくい原因として、すい臓の血液の流れの悪さが挙げられます。薬は血液にのって腫瘍に運ばれるので、血流が悪ければ薬はうまく届きません。そこで、ニトロ化合物に白羽の矢が立ちました。ニトロ化合物であるニトログリセリンはダイナマイトの原料なのですが、ダイナマイト工場の作業員が終業後にめまいを起こす事例が報告されていました。この現象を調べると、ニトログリセリンから一酸化窒素が放出され、これが血管を拡張して低血圧を起こしていたのです。血管を拡張すると血流は改善されるので、ニトロ化合物を投与すれば、すい臓にも薬が届きやすくなります。また、ニトロ化合物から放出される一酸化窒素には、腫瘍を収縮させる効果も発見されています。ニトロ化合物を投与することで、血管が拡張し、さらに腫瘍に到着したニトロ化合物そのものが抗がん作用を発揮することになります。
薬を運ぶアルブミン
しかし、腫瘍の近くで血管拡張を起こすには、ニトロ化合物を腫瘍に到達させる工夫(ドラッグ・デリバリー・システム)が必要です。血液の中のアルブミンというたんぱく質は、薬と結合する性質と、腫瘍に集積する性質を併せ持つことが知られています。そのためアルブミンに結合するニトロ化合物を開発すれば、腫瘍に集まる抗がん剤ができると考えられます。現在、開発された数種類のニトロ化合物のうちの1つが、スクリーニング調査と動物実験により、腫瘍を抑える効果が実証されています。
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崇城大学 薬学部 薬学科 教授 西 弘二 先生
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