細胞を3次元的に再構築して作る、ミニチュア臓器
細胞はどう振る舞うべきか知っている
人間の細胞では、「自己組織化」という不思議な現象が起こります。ばらばらの細胞を集めておくと、元の臓器や組織を構成するようなネットワークができるという現象です。細胞自身に元の臓器の記憶があって、まるで自分たちがどう振る舞うべきかを知っているかのようです。その現象に工学的な手法を加えて、ミニチュアの臓器を作るという研究が進められています。
細胞をインクジェットプリンタで射出する
例えば、膵臓(すいぞう)の中には、膵島(すいとう)と呼ばれる細胞の塊がたくさん浮かんでおり、主にα細胞とβ細胞という2種類の細胞で構成されています。この2種の細胞を凝集させておくと、中心部にβ細胞、周囲にα細胞と、元の膵島と同じように再構成されていくのです。再構築の手法としては、自己組織化を利用する方法のほかにも、さまざまな技術が試されています。例えば、3Dプリンタのように、インクジェット方式のプリンタから細胞を射出して固着させるという方法も注目されている技術のひとつです。
まったく新しい臓器の誕生?
そのようにして作られたミニチュア臓器は、本物ではない擬似的な臓器ですが、生物の体の中で臓器がどのように機能しているかということを、試験管の中で確かめるのに役に立ちます。人間が医薬品を飲んでみなくても、ある程度医薬品の効果を試すこともできるのです。
また、もちろん臓器移植などの再生医療にも利用できます。膵島の中のβ細胞には、インスリンというホルモンを分泌する機能がありますが、細胞の再構築を工夫することで、インスリンの分泌をより活性化させることも可能になっています。本物の臓器より高機能な臓器を作り出すことも、夢ではないのです。さらに言えば、細胞を再構築する手法を模索する中で、今までになかったまったく新しい臓器を開発することができるようになるかもしれません。
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先生情報 / 大学情報
横浜市立大学 理学部 理学科 教授 小島 伸彦 先生
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