糖尿病の治療法が変わるか? β細胞の細胞運命変化メカニズムを探る

糖尿病の治療法が変わるか? β細胞の細胞運命変化メカニズムを探る

2型糖尿病の原因

2型糖尿病は、血糖値が上がった状態が続くことで体中にさまざまな不具合を生じる生活習慣病の一種です。重要な原因の一つとしては、インスリンを分泌して血糖値を下げる機能を持つ、すい臓のβ細胞が死んでしまうことだと考えられていました。しかし近年、β細胞は死んで機能しなくなったわけではなく、実は生きており、「別の顔色」を持つ細胞に運命変化していることがわかったのです。例えば、糖尿病患者のβ細胞は血糖値を上げるグルカゴンを分泌するようになることがあります。これは糖尿病の悪化につながるおそれがあるため、β細胞の細胞運命変化のメカニズムを解明して対策を考えなければなりません。

過剰な栄養がβ細胞の顔色を変える?

β細胞が、この「別の顔色」を見せるときの条件を調べるために、細胞レベルでの研究が始まりました。実験では、特定の栄養を摂取しすぎたときの状態を再現してβ細胞の様子を観察します。すると糖のグルコース、悪玉脂肪酸といわれる飽和脂肪酸、そしてアミノ酸を過剰に与えたときにβ細胞が「疲れる」可能性があることがわかりました。これはβ細胞が「別の顔色」を見せるようになる一歩手前の段階だと考えられています。

細胞運命変化の理解に基づいた新たな糖尿病治療

糖尿病の発症までには、過剰栄養環境にβ細胞が適応しようとしてインスリンの分泌量を上昇させ、結果として疲弊し、最後に細胞運命変化を起こすという流れがあると考えられています。こうした点を踏まえると、β細胞の運命変化メカニズムを正確に理解することで、従来の治療法を見直す必要が出てきます。例えば糖尿病治療では、血糖値を下げるために、インスリンの分泌量を上げる薬が長らく処方されていました。この薬による環境の変化がβ細胞をさらに疲れさせている場合、症状を悪化させる可能性すらあります。すなわち、糖尿病の進行度によって適切な治療法は異なると考えられ、細胞が再び元の顔色を取り戻せるうちに治療をするためにも、β細胞の細胞運命変化の全容解明が求められています。

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山陽小野田市立山口東京理科大学 薬学部 薬学科 准教授 沖田 直之 先生

山陽小野田市立山口東京理科大学薬学部 薬学科 准教授沖田 直之 先生

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分子細胞生物学、生化学、代謝学

先生が目指すSDGs

メッセージ

物事の本質を学ぶ姿勢を身につけた上で、「セレンディピティ」を大切にしてほしいです。これは、別のものを探していたときに、予想もしていなかった発見をする能力です。この能力を発揮するためには、目の前に起こっている現象を素直に受け入れる習慣をつけるとよいでしょう。例えば機械が壊れたとき、すぐに説明書を見たくなるかもしれません。しかしまずは、機械そのものを観察して「なぜ動かないのか」と自分なりに考えるのです。予想を立てた上で説明書を見て必要な知識をインプットすると、思いがけない発見があるかもしれません。

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山陽小野田市立山口東京理科大学は「確かな基礎教育」を掲げ、基礎学力を育成する体系的な教育を行っています。2016年4月、公立大学法人へと移行、2018年4月西日本初の公立の薬学部を設置し、工学部・薬学部の二学部体制となりました。東京理科大学の姉妹校として、基礎学力を重視した実力主義の教育を受け継ぎ、工学・薬学の専門的な学術を教育・研究するとともに、地域産業界・医療界で活躍する人材を育成します!