「女性に対する暴力」に対してジェンダー視点からアプローチする
法律の概念とは異なる暴力の実態
配偶者やパートナー、恋人関係にある人からのDV(ドメスティック・バイオレンス)は、被害者の多くを女性が占めていますが、これが偶然ではないことを理論的にどう説明できるのか模索されています。そして、一方の性別に偏りがあるという事実が、暴力の特徴にも何らかの影響を及ぼしていると考えられています。DV防止法という法律が制定されていますが、裁判所が発令する「保護命令」は身体的な暴力を基準として判断されます。しかし、相談の現場に寄せられる被害を分析してみると、精神的、性的、経済的暴力など、身体的暴力を必ずしも伴わない暴力で生命の危機を感じている被害者も多いことがわかってきました。身体的暴力を中心とした法律の定義と実態にある乖離、それを被害者の性別に着目しながら理論化していくのです。
法律の問題点
セクハラや性暴力でしばしば争点になるのは、「嫌がっているとは思っていなかった」「合意があると思っていた」といった加害者と被害者の主張の食い違いです。この問題を「個人の受け止め方の違い」として捉えるのではなく、社会におけるジェンダーステレオタイプ(男性や女性に対する固定的なイメージ)と連動させながら分析します。そこから実態がよりよく理解することができるようになります。今の日本の刑法では、暴行や脅迫がなければ性犯罪として認められません。しかし性暴力は、関係性が構築された両者の間で起こることが多く、暴行や脅迫がなくても言うことを聞かざるを得ない、という実態との隔たりが指摘されています。
まず制度をつくる
ジェンダーステレオタイプや性別役割分担の意識が根強い日本では、その考え方をすぐに変えることは難しいことかもしれません。しかし法制度を整え、効力を持たせることで、困っている多くの被害者が救われる社会は実現できます。DVやセクハラ、性暴力などの被害者の声をしっかり聞き、今ある法律に不足していることをジェンダーの視点で見つけ出し、社会に対して声を上げていくことが求められています。
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先生情報 / 大学情報
フェリス女学院大学 グローバル教養学部 心理コミュニケーション学科 共生コミュニケーター専攻 ※2025年4月開設 准教授 山本 千晶 先生
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