国家は誰かのものなのか 19世紀ドイツの国法学を通して考える

国家は誰かのものなのか 19世紀ドイツの国法学を通して考える

ドイツ国法学

ドイツ諸邦では19世紀前半に、相次いで憲法が制定されました。憲法は制定するだけでは意味をなしません。そこに書かれている条文、あるいは書かれていないことをいかに考え、結論づけるかが、憲法の適用にも大きく関係します。19世紀のドイツでは日本の憲法学にあたる「国法学」が発展しますが、その中で生まれたさまざまな解釈や理論は、大日本帝国憲法時代の日本の憲法学者にも多大な影響を与えました。例えば国の統治権の主体は「国家」であり、天皇はその機関であるとする「天皇機関説」も、ラーバントやイェリネクといったドイツの国法学者が唱えた「国家法人説」に強く影響されています。

国家法人説

国家法人説とは、国家は統一された団体であり、法律関係の主体になる法人であるとする説です。ヨーロッパ諸国は20世紀前半まで王を戴く君主制が中心でしたが、国家法人説は君主も国家に含まれると位置づけています。例えば、ある憲法を制定した君主が亡くなった際、王位継承者はその憲法を取り消すことができるのでしょうか。伝統的な君主制では、国家は君主の「家産」であると考えられたため、王位継承は「家産の相続」という観点から捉えられました。しかし、国家は君主や国民から独立したものとして構成されなければならないと考える「国家法人説」の登場によって、議論は一新されることになりました。

法制史研究

国家法人説はアルブレヒトの書評論文以降、ドイツの国法学者たちによってさまざまに議論されてきました。主権は君主にあるのか、国民にあるのか、あるいはどちらでもないのかといった彼らの議論を巡っては、まだまだ研究の余地が残されています。公刊された論文はもちろん、書簡(手紙)や鑑定意見書といった未公刊の史料を徹底的に読み込むこと、また市民階層の意識や貴族社会の風習を含む近代ドイツ社会について深く理解するといった法制史の地道な研究を通してこそ、日本の皇室典範や憲法にも大きな影響を与えたドイツ国法学の奥深い議論が明らかになるのです。

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神戸学院大学 法学部 法律学科 准教授 藤川 直樹 先生

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西洋法制史、日本法制史、比較法、憲法学

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現代の大学にはさまざまな役割が求められますが、真理を追究する研究の場としての意義は失われていません。研究と言っても、部屋に閉じこもってずっと本を読めばいいというものではありません。周囲の学生や教授と議論することも重要です。例えば自分がまとめたレポートや研究論文をもとに学友と意見を交わし、ときには厳しく批判し合うことでしか得られない類いの学びもあります。もちろん、こうした議論は誰かにやらされてできるものではありません。まずは自分が面白いと思うことを見つけて、大学で思い切り研究してほしいと思います。

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