拡大する国際移民現象をどう理解するか―フィリピンから学ぶ
どこの国で働くか
日本人の多くが日本で就職するのに対して、国民の約1割が国外で働くフィリピンでは、若者が海外で働くことも視野に入れて勉学に励んでいます。国外で働くフィリピン人から本国への送金は、フィリピンの国内総生産(GDP)の約1割に相当するほどで、経済成長に大きく寄与しているのです。国外での仕事を探すフィリピン人は、給与や仕事の内容だけでなく、生活環境やフィリピン人のコミュニティの有無などを総合的に考えます。情報を共有して助け合うネットワークが世界中にあるのが、フィリピン人の強みだといえるでしょう。
「国外で働くこと」のとらえかた
ヒト・モノ・カネ・情報のグローバル化が進んだことで、「国外で働くこと」のとらえかたも変化しています。働く側は、かつての「そこで骨を埋める覚悟で移住する」というスタンスから、「一時的な出稼ぎ」の意味合いが強くなってきました。一方、受入国側の対応もさまざまです。例えば出稼ぎ外国人を積極的に受け入れる中東の湾岸産油国では、自国民には国家予算で教育や社会保障を手厚くする一方で、出稼ぎ外国人やその家族にはそうした保障はなく、仕事の契約期間が終われば帰国、と対応を明確に分けています。
世界の変化に対応し挑戦する心持ち
フィリピン人が国外へ移動して働くことについて、文化人類学の視点からとらえ直した研究があります。フィリピンのとある地域から移動して働く人たちの語るところを分析すると、出稼ぎの動機はお金を稼いで送金することだけでなく、「サパララン」であることがわかりました。サパラランとは、「豊かさを求めて冒険する」という意味で、外の世界の変化に対応して自ら新しいことに挑戦する心の持ちようといえます。不確実性の時代といわれ、「計画に基づいてコツコツ働けば成功できる」という価値観がゆらぐ現代において、機運をみて冒険してみようという考え方は、あなたにとっても参考になるといえるでしょう。
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長崎大学 多文化社会学部 多文化社会学科 准教授 細田 尚美 先生
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