児童雑誌から垣間見える、中国社会の移り変わり

児童雑誌から垣間見える、中国社会の移り変わり

大事なのは子どもより親?

近代以前の中国では儒教の教えの下で、親を大事にしなければならないという考えが根付いていました。一方、子どもはどこか軽んじられ、教育の場においても児童向けのテキストなどはなく、四書五経といった大人用の文献がそのまま使われていたのです。しかし清朝末期、西洋諸国との関わりの中で人権や女性の扱いとともに、児童教育についても考えられるようになりました。その一端を担ったのが魯迅(ろじん)で、彼は文学を通して中国の伝統的な思想の誤りを正そうとしたのです。

近代化に向け児童雑誌が果たした役割

清の後を受け樹立された中華民国では新しい学制や教科書が採用され、発行され始めた児童雑誌が国語の副読本的な役割を担いました。特に政府と密な関係にあった出版社では新しく作られた発音記号の「注音字母」を積極的に掲載し、これを普及させようとしました。当時の中国では同じ意味の言葉でも使われる漢字や発音が地域によってバラバラで、近代化のためにも言語統一は避けて通れない道だったのです。児童雑誌はその後、蒋介石(しょうかいせき)が起こした新生活運動にも一役買い、生活規範や衛生観念を浸透させる上で成果を上げました。

中国人は敵国の文化も吸収する

また児童雑誌には読みものとして、『ピーター・パン』や『不思議の国のアリス』といった西洋童話も掲載されていました。それまでの中国には子どもが異界に迷い込むような物語はなく、これらの物語は大きな反響を呼び、「アリス」と名付けられた子どももたくさんいたと言われています。
1930年代後半、世界情勢が緊迫化していく中でも中国は海外文化を完全には排斥せず、敵対関係にあった日本の「忠犬ハチ公」やお正月の過ごし方を取り上げた記事すら掲載していました。この辺りは政治的関係がこじれると途端に拒絶反応を見せる日本人と一線を画すところであり、日本人以上に他国の文化に貪欲で、それを自国化するたくましさがあると言えるでしょう。

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東京都立大学 人文社会学部 人文学科 教授 佐々木 睦 先生

東京都立大学 人文社会学部 人文学科 教授 佐々木 睦 先生

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中国文学、中国文化論

メッセージ

さまざまな大学の先生に話を聞いてみると、最初は今の専門とは違うことを研究しようと考えていた方が意外に多いのです。自分が本当にやりたいと思えることに巡り合うことは、それだけ難しいと言えるでしょう。
しかしどんな場所でも新しい出会いがあり、「これだ!」というものが見つけられる可能性が眠っています。また学問はわからないことばかりでも、ある程度臨界点に達すると急に面白くなりますから、これだというものが見つかったら諦めずに続けてください。

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