公平とは何か~「損失補償」から公共の利益と個人の権利を考える
公法上の損失補償
日本の法律は、憲法の下に、刑法、民法、行政法の3つの分野に分かれます。このうち行政法には、「公共の利益のためなら個人の権利をある程度制限できる」という考え方が基本にあります。公共事業のために個人の土地を取り上げる土地収用などがその例です。ただし、その際にはタダで土地を取り上げることはできず、土地の価値分のお金を補償しなければなりません。これを一般に「公法上の損失補償」といいます。
平等や公平を考える
損失補償の程度に関する考え方には、完全補償説と相当補償説があります。完全補償説は、土地収用などの場合にはもとの土地の価値分を完全に補償すべきという考え方です。これに対して相当補償説は、状況に応じて「相当」とされる額を補償するだけでよいというもので、戦後に大地主の土地を小作人に安く分け与えた「農地改革」のような特殊な状況が、この考え方で説明されています。この学説の対立からわかるように、損失補償について考えることは、現実社会の中で本当の「平等」や「公平」が何なのかを考えるうえで、一つのヒントを与えてくれるものなのです。
憲法と行政法
損失補償の分野には、土地収用法のような個別の法律はありますが、あらゆる場面に適用される「国家補償法」のような名前の一般的法律はありません。その代わり、裁判で損失補償を求める場合の根拠とされているのが、国民の財産権を保障する憲法29条です。憲法29条3項には、「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」と定められています。国民がもし、自分の財産権を侵害されているのに、十分な損失補償を定める法律規定がないときには、これによって裁判で損失補償を請求することができると、最高裁判所は考えているのです。ここからわかるように、損失補償研究にとっては、個別の行政法の解釈だけでなく、憲法で保障されている財産権がどのように侵害されれば損失補償の対象となるのか、あるいはその補償の額はいくらになるのかといったことが、重要になります。
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駿河台大学 法学部 法律学科 准教授 倉島 安司 先生
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