乳酸は「疲労物質」? それともエネルギー源?
乳酸は疲労の原因ではなかった!
かつて、乳酸は「疲労物質」と呼ばれていました。筋肉が疲れるのは、乳酸が体内に蓄積されるからだと考えられていたからです。確かに、強い運動を行い筋肉が疲労したときに乳酸値を測ると、安静時よりも高くなります。そのため、乳酸が疲労の原因だと考えられたのです。しかし実際には、乳酸そのものは疲労の原因ではないことが明らかになりました。例えば、マラソンやサッカーを行うと疲労が蓄積しますが、終了時の乳酸値は徐々に低くなっていくことがわかっています。
乳酸はなぜ生まれるのか?
車を動かすためにガソリンが必要なように、人間が筋肉を動かすときにはATP(アデノシン三リン酸)というエネルギーが必要です。特に激しいスポーツをするとき、ATPは主に筋肉に蓄えられたグリコーゲンから作られます。このとき、グリコーゲンからATPができる過程で作られるのが乳酸です。したがって、乳酸は体内でグリコーゲンがどのくらい使われているのかを知る「指標」となります。
例えば、同じ強度の運動を同じ時間行ったとき、Aさんの血中の乳酸値が6mmol/l、Bさんが3mmol/lなら、Aさんのほうが多くグリコーゲンを消費していることがわかります。ラストスパートのために、グリコーゲンは節約しておきたいので、トレーニングによって同じ運動で作られる乳酸の量を減らすことができれば、より長く高いパフォーマンスを発揮できる可能性があるのです。スポーツ科学やトレーニング科学のテーマの1つがここにあります。
新たにわかってきた乳酸の役割
乳酸は単に運動中のグリコーゲン消費の指標になるだけではありません。グリコーゲンがATPになる過程でできた乳酸は、肝臓に戻って糖に変わり、再びATPを作る材料になることが知られています。また近年の研究で、筋肉はもちろん、脳の神経細胞や心臓の筋肉でも、乳酸がエネルギー源となっていることがわかってきています。つまり乳酸は、疲労物質どころか、筋肉、脳、心臓のエネルギー源となる大切な物質だったのです。
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駿河台大学 スポーツ科学部 スポーツ科学科 教授 大森 一伸 先生
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