体の病気の医療現場で心理学が貢献できること
医療における心理学の貢献
「明日から間食は禁止」「毎日一万歩、必ず歩くこと」と言われたら、あなたはすぐに実行できるでしょうか? 生活習慣病など一生つきあっていく病気を患った人の中には、こうした告知を唐突に受け、生活を大きく変えることを迫られる人たちがいます。しかし、医師が確かな根拠をもとに正しい指導を行っても、長く続けてきた食生活や運動習慣をいきなり変えることは誰にとっても簡単ではありません。医療の現場ではしばしばこうした患者の動機づけと行動の変容が問題になります。そこで、患者が病気と向き合い、生活改善が自分に必要なことと納得し、行動を変えるうえで期待を集めている学問が、人間の心と行動を専門とする心理学です。
グループの力
心理療法のアプローチのひとつにグループ療法があります。同じ病や問題を抱える人たちが集まり、日頃の食習慣、運動、服薬にまつわる困難や工夫を語り学び合います。例えば「塩分の濃い食べ物は医師に注意されているけれど、友人に誘われてつい食べてしまった」といった経験を打ち明け、どのように対処すれば乗り切れるのかをみんなで話し合います。療養生活上の負担感を分かち合い、同病者から新たな対処の仕方を学び、一生の病気とつきあっていくモチベーションを高めるのがグループアプローチの目的です。
独自のひとりの人を尊重する視点
医療の世界では「患者中心」「全人的医療(患者を一人の人間として包括的にとらえる医療)」が掲げられています。例えば同じ糖尿病と診断された人であっても、病を患うまでの経緯、置かれている環境はそれぞれに異なるため、施される医療やケアも本来個別に異なるはずです。しかし、忙しい医療の現場ではじっくり時間をかけて本人の考えを十分理解することも難しく、本来尊重されるはずの一人ひとり異なる独自の個人としての側面がそぎ落とされやすい現実があります。だからこそ、患者の存在をその人の生い立ちや性格、生活環境も含めて捉えていく心理学ならではの視点がチーム医療において役立つと考えられます。
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先生情報 / 大学情報
神戸女子大学 心理学部 心理学科 准教授 巣黒 慎太郎 先生
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