なぜ動物の行動を観察すると、人間のことがわかるのだろう?
動物の心を研究する学問とは?
心理学にはヒトだけではなく、動物を対象にした分野があります。「動物心理学」ないし「比較認知科学」と呼ばれる領域では、ヒトを含めたさまざまな動物の行動やその背景を分析し、比較することによって、「心」の仕組みを解明する目的があります。ヒトを対象にした実験では、その人の生い立ちや生活環境などのさまざまな要因を考慮しなければなりませんが、ヒト以外の動物ではその要因をコントロールすることが可能です。ヒトの心を明らかにするだけでなく、動物自体を理解するのにも役立ちます。
ネズミは互いに協力できる?
例えば、動物は互いに協力することができるでしょうか? この疑問に対して、次のような実験が行われています。蓋をした餌箱を2カ所に置き、2匹のネズミが同時にレバーを押した時だけ、蓋が開いて餌を食べられるというものです。すると何度か経験をすると、ネズミは2匹でレバーを押し、餌を食べられるようになったのです。しかし、餌を1カ所にまとめた場合、ネズミは仲良く分配することなく、強いほうが一人占めをしてしまいました。他の動物でも実験していますが、上手くいきません。もしかすると公平に分配し合うのはヒトだけかもしれません。
動物の行動から人間社会が見えてくる!
この実験から見えてくるのは、ヒトは「相手も手伝ったのだから分け前をもらうのは当然」と相手の立場も考えられるということです。私たちの生活は、さまざまな人々が互いに協力して支え合って成り立っています。食べ物や衣服など、誰かが作ったものをいろいろな人を介して入手しています。このような複雑な協力関係が、誰かと仲良くしたいと思い、仲良くしたいからこそ、ねたんだり、裏切ったりすることに関わっていると考えます。また協力に基づく分業は専門性を追求する洗練された行動で、それによって私たちの社会は発展してきたと言えます。気づかないうちに協力し合って生きているのが人間社会の基盤であり、ヒトを見るだけではわからないことが、動物と比較することで見えてくるのです。
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先生情報 / 大学情報
帝京大学 文学部 心理学科 教授 草山 太一 先生
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