植物と重金属の関係が、食糧問題解決につながる
植物と重金属の関係
植物が重金属の過不足に対応する仕組みは知恵に満ちています。マンガンや鉄などの重金属は過剰になると危険ですが、光合成にも関わる、植物にとって必須の元素です。窒素・リン酸・カリの三大栄養素だけでは植物栄養は成り立ちません。植物には重金属を土壌から吸収し、体内の濃度を適切に保つ仕組みが存在します。
イネがマンガンをたくさん吸収し溜める仕組み
水を張った水田では、土壌還元によりマンガンが高い濃度で溶け出します。イネはマンガンを土からたくさん吸い上げて積極的に地上部へ輸送し、高濃度に集積します。葉に蓄えた余分なマンガンを無毒化しますが、その能力は大豆やトウモロコシの数十倍にもなります。この高いマンガン集積性にはCDFという種類のトランスポーター(運び屋タンパク質)が関与しています。根にあるCDFの一種はマンガンのスムーズな吸収を担います。また、葉にあるCDFにはマンガンを液胞などへ排出し無毒化するものがあります。
世界中にある不良土壌を活用し食糧危機に貢献を
世界の農地の6~7割は、酸性やアルカリ性に偏っていて、農耕に適さないとされてきました。しかし、世界の飢餓人口がコロナ禍以前の倍になるなど、食糧問題解決には、不良土壌でも育つ作物が求められています。マンガンについては酸性土壌では過剰症が、アルカリ土壌では欠乏症が問題となります。イネのマンガン輸送分子メカニズムをもとに、マンガン耐性の高い作物や、少ないマンガンを有効に利用できる品種を開発することが可能です。ただし、不良土壌での栄養障害には複合的な要因があり、植物種・品種による違いもあるため、ひとつひとつのトランスポーターの役割を研究して知見を積み上げることが大切です。それでも、植物の遺伝子機能は種を超えて保存されているため、イネで明らかにした分子メカニズムは、他の植物種にも応用できると考えられます。
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先生情報 / 大学情報
高知大学 農林海洋科学部 農芸化学科 教授 上野 大勢 先生
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