ホヤの全神経細胞を解析し人間の脳の理解へとつなげる
ホヤの神経細胞は177個
生き物の神経系がどのように作られどのように働くのかを細胞レベルで解明するために、「海のパイナップル」として知られる「ホヤ」を使った研究が行われています。研究に使われるのは食用のマボヤではなくカタユウレイボヤという種類です。ホヤは脊椎動物に最も近縁な無脊椎動物で、オタマジャクシ型の幼生の神経系は脊椎動物と同じく背側にあるため、ホヤを調べることで脊椎動物の基本的な神経系のメカニズムがわかると考えられます。人間の脳を構成する神経細胞は1000億個もあるのに対し、ホヤの神経細胞はたった177個しかありません。そのため、ホヤを使えば神経細胞一つ一つについて機能や遺伝子発現、発生など丹念に研究することが可能なのです。
さまざまな研究手法
細胞の機能を知るためには、光を当てることで神経細胞の機能を活性化または阻害する「光遺伝学」の手法が使われます。例えば、ある細胞を活性化するとホヤ幼生が泳ぎ、阻害すると泳ぐのをやめたとすると、それは泳ぐために重要な機能を持つ細胞だとわかります。遺伝子発現を知るには、一つ一つの細胞のRNA配列を解析する「単一細胞トランスクリプトーム」という技術を使います。これで、発生過程やホヤの体に何種類の細胞があるのかなどを知ることができます。研究の結果、ホヤ幼生の中枢神経には24種類の細胞があることがわかり、その中のドーパミン神経を作る因子などが特定されています。
医学や工学への応用
ホヤの遺伝子、細胞レベルでの神経回路の研究は医学分野への応用が可能です。例えばパーキンソン病の原因はドーパミン神経の減少であるため、ホヤのドーパミン神経を作る因子の特定は、再生医療への展開が期待されます。一方でホヤの神経系の研究は工学分野にも応用されています。生き物の脳から学んだ機械学習アルゴリズムや、ホヤの神経回路を電気回路と比較することでホヤの動きを模倣したロボットの開発などが進められています。
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大阪大学 基礎工学部 システム科学科 生物工学コース 教授 堀江 健生 先生
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