「トランスポーター」の機能を解明して、抗がん剤治療に貢献
トランスポーターが運んでいる化合物を探せ
薬の効き方には個人差があります。その一因となるのが、細胞に化合物が出入りするときの輸送係となる、細胞膜のタンパク質「トランスポーター」の働きです。トランスポーターが普段から輸送している、体内にもともとある化合物(基質)は、トランスポーターの機能を予測する指標「バイオマーカー」になり得ます。バイオマーカーを見つけるには、通常のマウスと、トランスポーターの機能が抑えられているマウスから血液を採取し、メタボロミクスという化合物を網羅的に測る技術を使って、血中濃度に差がある化合物を探していきます。
薬の副作用でがんの薬物治療を止めないために
「BCRP」は主に小腸に発現する、薬を細胞から排出する機能を持つトランスポーターです。薬を飲んだときに消化管で吸収を阻害しているトランスポーターで、この機能が落ちると薬の成分が体内に蓄積しやすくなり、副作用を引き起こすことがあります。例えば、レゴラフェニブという抗がん剤には、手のひらや足の指に炎症が起きる手足症候群という副作用があり、QOL(生活の質)を大きく下げてしまうため、重篤な場合には抗がん剤治療を中断することもあります。バイオマーカーを参考にトランスポーターの機能を予測して、薬の投与量を調節できるようになれば、副作用によるがんの薬物治療の中断を減らせるかもしれません。
無限に広がるバイオマーカー探索
トランスポーターは薬だけでなく、さまざまな化合物を運んでいます。BCRPは、豆腐や味噌などの大豆製品に含まれるイソフラボンの代謝物を運んでいることがわかりました。バイオマーカーの探索を食品由来成分まで広げることで、探索する化合物のバリエーションは無限に広がります。イソフラボンの代謝物そのものには作用はありませんが、普段は着目されることのない化合物であっても、トランスポーターの機能解明に役立つ、新しいバイオマーカーになる可能性を秘めているのです。
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