講義No.13366 薬学

「トランスポーター」の機能を解明して、抗がん剤治療に貢献

「トランスポーター」の機能を解明して、抗がん剤治療に貢献

トランスポーターが運んでいる化合物を探せ

薬の効き方には個人差があります。その一因となるのが、細胞に化合物が出入りするときの輸送係となる、細胞膜のタンパク質「トランスポーター」の働きです。トランスポーターが普段から輸送している、体内にもともとある化合物(基質)は、トランスポーターの機能を予測する指標「バイオマーカー」になり得ます。バイオマーカーを見つけるには、通常のマウスと、トランスポーターの機能が抑えられているマウスから血液を採取し、メタボロミクスという化合物を網羅的に測る技術を使って、血中濃度に差がある化合物を探していきます。

薬の副作用でがんの薬物治療を止めないために

「BCRP」は主に小腸に発現する、薬を細胞から排出する機能を持つトランスポーターです。薬を飲んだときに消化管で吸収を阻害しているトランスポーターで、この機能が落ちると薬の成分が体内に蓄積しやすくなり、副作用を引き起こすことがあります。例えば、レゴラフェニブという抗がん剤には、手のひらや足の指に炎症が起きる手足症候群という副作用があり、QOL(生活の質)を大きく下げてしまうため、重篤な場合には抗がん剤治療を中断することもあります。バイオマーカーを参考にトランスポーターの機能を予測して、薬の投与量を調節できるようになれば、副作用によるがんの薬物治療の中断を減らせるかもしれません。

無限に広がるバイオマーカー探索

トランスポーターは薬だけでなく、さまざまな化合物を運んでいます。BCRPは、豆腐や味噌などの大豆製品に含まれるイソフラボンの代謝物を運んでいることがわかりました。バイオマーカーの探索を食品由来成分まで広げることで、探索する化合物のバリエーションは無限に広がります。イソフラボンの代謝物そのものには作用はありませんが、普段は着目されることのない化合物であっても、トランスポーターの機能解明に役立つ、新しいバイオマーカーになる可能性を秘めているのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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金沢大学 医薬保健学域 薬学類 准教授 増尾 友佑 先生

金沢大学 医薬保健学域 薬学類 准教授 増尾 友佑 先生

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メッセージ

大学での学びは、答えが1つとは限りません。トランスポーターの研究で、あまり着目されない化合物でもバイオマーカーとして役立つことがあるように、どんなところにも可能性は見つかります。あなたと共に学び、あなたの考えを否定することなく、一緒に1つずつ、可能性を検証していきたいです。

金沢大学に関心を持ったあなたは

金沢大学は150年以上の歴史と伝統を誇る総合大学であり、日本海側にある基幹大学として我が国の高等教育と学術研究の発展に貢献してきました。本学が位置する金沢市は、日常生活にも伝統文化が息づき、兼六園などの自然環境に恵まれ、学生が思索し学ぶに相応しい学都です。江戸時代から天下の書府とも呼ばれ、伝統の中に革新を織り交ぜて発展してきた創造都市とも言えます。「創造なき伝統は空虚」との警句を胸に刻み、地域はもとより幅広く国内外から来た意欲あるみなさんが新生・金沢大学への扉を共に開くことを期待しています。