医学と工学の架け橋となる中性子の新たな可能性
エネルギー分野と深く関わる中性子
地球上のすべての物質は、100種類以上存在する原子の組み合わせでできています。原子は電子と原子核からできており、原子核を構成する微小な粒子(核子)が陽子と中性子です。中性子は20世紀初めに発見された核子で、ウランと中性子の核分裂反応でエネルギーを取り出すことができます。それを応用したものが原子炉および原子力発電です。
21世紀を迎え、より安全・安心な次世代エネルギー源を確保するため、水素の核融合反応により中性子とエネルギーを生成する核融合炉の開発が各国で進められています。
画期的ながん治療、「ホウ素中性子捕捉療法」
放射線の中でも中性子の応用では近年、工学と医学がクロスオーバーした「医工学」の領域で、「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」と呼ばれる先進的ながん治療が実現しつつあります。ホウ素化合物を脳腫瘍などのがん患者にあらかじめ投与しておき、ホウ素が蓄積した腫瘍細胞にエネルギーが低い、熱中性子と呼ばれる中性子を照射するもので、ホウ素と中性子の核反応により生成されたアルファ粒子とリチウム粒子が腫瘍細胞のみを殺傷します。アルファ粒子とリチウム粒子は体内で細胞の大きさ程度である約10ミクロンしか飛ばないので、周りの正常細胞にダメージを与えず、ピンポイント(細胞レベル)でがんを撃退できる、従来にはない画期的ながん治療法です。
中性子を医療という新たなステージで活用
BNCTには中性子を生成する原子炉が必要ですが、病院内にはもちろん設置できません。代わりに、リチウムやベリリウムなどの金属ターゲットに陽子を照射し中性子を発生させる、小型加速器中性子源の開発が進められています。日本は、BNCTの臨床研究分野(医学)でも中性子源開発分野(工学)でも世界の最先端を走っています。「原子炉で発生する、なんとなく怖いモノ」というイメージがある中性子が広く医療に貢献し、すべてのがん患者の皆さんがBNCTという画期的な治療を受けられる日もそう遠くはないでしょう。
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先生情報 / 大学情報
大阪大学 工学部 環境・エネルギー工学科 エネルギー量子工学科目 教授 村田 勲 先生
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医工学、量子エネルギー工学、中性子工学先生が目指すSDGs
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