ナノ秒レベルの反応を制御! 光反応と蛍光物質の研究

ナノ秒レベルの反応を制御! 光反応と蛍光物質の研究

光反応で物質を合成する

太陽光で、植物は光合成を行い、人は日焼けして、看板は退色します。これは光による化学反応「光反応」が起こす現象です。
有機化学合成では従来、熱エネルギーや触媒で化学反応を起こしてきましたが、光は熱より1~2桁も大きいエネルギーを持つので、光で化学反応を起こせれば、これまでは作れなかった物質も作れます。光による有機化学合成が難しいのは、ナノ秒レベルのごく短時間に高エネルギーで激しい反応が起こるため、制御しにくいという問題があったからです。しかし現在は、その短時間に、例えば分子のどことどこをくっつけるかといった「反応の制御」ができるようになりました。

ナノ秒の光励起状態の制御がカギ

光を吸収した原子・分子は、量子力学で言う「光励起(れいき)」という高エネルギー状態になります。そのエネルギーで結合したり分解したりする反応が起こったあと、「基底状態」というもとのエネルギー状態に戻ります。このときの反応は、光環化付加反応、光誘起電子移動反応、光転位反応など、熱や触媒とは異なる独特のものなので、短時間で起こる反応をうまく制御できれば、これまでにない合成法となります。また、無尽蔵でクリーンな太陽光を使えば、エコな合成法としても画期的で、光反応の研究は夢の有機化学合成として期待されています。

望む色の光を出せる蛍光物質の研究

光励起で化学反応を起こさずに、蛍光を放つことで基底状態に戻る物質もあります。これが「蛍光物質」です。光反応研究の過程では、たくさんの新しい蛍光物質が合成されたり発見されたりしています。蛍光物質は、照射された光よりも長い波長を出す法則があり、照射する光や蛍光物質の種類を変えれば、望む波長(色)の光が出せます。
最近では、蛍光量子収率99%、つまり、エネルギーのロスなく波長変換できる効率の良い蛍光物質が誕生しました。こうした新しい蛍光物質の技術が、ディスプレイなど光を出す機器に応用できる可能性もあり、注目が集まっています。

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金沢大学 理工学域 物質化学類 教授 前多 肇 先生

金沢大学 理工学域 物質化学類 教授 前多 肇 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

有機化学、合成化学、機能物性化学

先生が目指すSDGs

メッセージ

寝食を忘れて好きなことに没頭できる「変人」になりましょう。私は小学校のときに、歌番組のランキングを毎週記録して分析したり、本に載っていた円周率1万桁をノートに書き写したり、電話帳から名前ランキングを作ったりと、「変なこと」に熱中していました。そんなふうに興味を持ったことに没頭できる力が、研究の仕事につながりました。「本当は熱中したいことがあるけど、周りがなんと言うか……」と、遠慮していることがあるなら、ぜひ研究の道で、その興味と没頭できる力を生かしてください。

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