宇宙の謎を解き明かすX線天文学
X線観測から見えてくる宇宙の別の姿
X線は光の1種で、その波長は可視光線に比べ、千分の一以下しかありません。波長が大きく異なるため、レントゲン写真のように、可視光線では見えないものを写せるのです。宇宙についても同じで、ある種の天体が自然に発しているX線を観測することで、望遠鏡で見るのとは全く異なる宇宙の姿が見られます。
例えば、宇宙で最も大きな構造物の一つである銀河団は人間の眼には単なる銀河の集合に見えます。ところがX線で撮像すると、全体が高温のガスに覆われた火の玉のように写ります。調査により、これは強力な重力だけを作り出す「ダークマター」と呼ばれる物質が銀河団のところに固まっており、ガスを引き寄せていることがわかりました。
ブラックホールの形成過程の謎を解く
X線天文学の重要な研究対象の一つは、ブラックホールです。ブラックホールには、太陽の10倍くらいの重さのものと、400万倍以上の重さの2種類があります。前者は太陽よりも10倍以上大きな恒星が、その寿命の最後に大爆発を起こして、ブラックホールになったと考えられています。後者の形成過程はまだわかっていません。近年、X線観測により、両者の中間の重さのブラックホールが発見されました。小さいブラックホールが成長して大きなものになっている可能性が示唆され、さらなる研究が進められています。
高精度な装置の開発
宇宙からのX線は、地上では大気によって遮断されてしまうため、人工衛星を使って大気圏外から観測します。人工衛星に搭載するX線検出装置の開発も重要な研究テーマです。多数の大学や研究機関が協力し、高精度な観測を可能とする装置の開発に取り組んでいます。
2023年は日本で7基目のX線天文衛星となる「XRISM」の打ち上げが予定されています。XRISMから得られるデータは、銀河団の設計図や、水素とヘリウム以外の元素の誕生のプロセスをはじめ、さまざまな謎を解く手がかりとなることが期待されています。
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先生情報 / 大学情報
大阪大学 理学部 物理学科 教授 松本 浩典 先生
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