講義No.13664 経済学

「地域の問題」をみんなで解くための経済学

「地域の問題」をみんなで解くための経済学

一度失われると復元できない価値

令和の日本では、少子高齢化による人口減少が進んでいます。特に農山村地域においては若者が都市部に流出する影響も大きく、地域の農業を高齢者が支えたり、祭りや食文化継承の担い手不足に悩んだりしています。これらの産業や文化は国内外で高く評価される一方で、一度失われると復元はほぼ不可能です。そのため地域住民が、自身の住む地域の現状や魅力を正しく理解した上で、持続可能な地域社会を形成していく必要があるのです。

「集落カルテ」で現状を理解する

近畿地方のとある市と大学が連携して、現状認識のための「集落カルテ」を作成した研究があります。カルテでは、市が提供する人口や世帯に関する情報に加えて、住民一人一人が200を超える地区の、どの自治会に所属しているかがデータ化されました。祭りや行事を担うコミュニティとして自治会が着目されたのです。さらに「子育て」「高齢者ケア」「買い物」などのカテゴリーごとの該当施設の位置情報がマッピングされて、各自治会の公民館から半径5キロ以内にある施設数をもとにした偏差値が算出されました。例えば「A自治会は子育て関連施設の偏差値50」といった形で、地域の現状が可視化されたのです。

問題をみんなで解決するために

そして、自治会の困りごとや住民の生活満足度についてのアンケート調査も行われました。すると具体的な困りごととして、空き家の庭などに生える「雑草問題」が多く表れました。さらにアンケート結果を統計的手法で分析すると、「自治会での住民同士のつながりが強い地区は雑草などの困りごとが少なく、住民の生活満足度も高い」といった傾向が示されたのです。しかしその一方で、地域から都市部に流出する若者には女性が多いというデータもあります。そこで、地域コミュニティのつながりの強さや慣習が女性の暮らしに与える影響についても、さらなる調査が進められています。簡単には解けない地域の問題に、地域全体で取り組む動きが続いています。

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先生情報 / 大学情報

大阪大学 経済学部 経済・経営学科 教授 上須 道徳 先生

大阪大学 経済学部 経済・経営学科 教授 上須 道徳 先生

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経済学、経済統計、環境学

先生が目指すSDGs

メッセージ

アイヌ語で「考える」を意味する「ヤイコシラムスイェ」は、直訳すると「自分自身に向かって、自らの心を揺らす」となります。何かを考えようとするときに、理論的に思考するだけでなく、じっくりと自分に向き合い、心を揺らすよう意識してみると、物事の見え方が多面的になったり、新たなアイデアが生まれたりするかもしれません。大学には多様で深い学びのチャンスが数多くあります。自分の心を揺さぶるような物事に出会って思考を深め、学びの楽しさを味わってほしいです。

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自由な学風と進取の精神が伝統である大阪大学は、学術研究でも生命科学をはじめ各分野で多くの研究者が世界を舞台に活躍、阪大の名を高めています。その理由は、モットーである「地域に生き世界に伸びる」を忠実に実践してきたからです。阪大の特色は、この理念に全てが集約されています。また、大阪大学は、常に発展し続ける大学です。新たな試みに果敢に挑戦し、異質なものを迎え入れ、脱皮を繰り返すみずみずしい息吹がキャンパスに満ち溢れています。