宇宙への旅は、出かけるよりも帰る方が難しい?
大気圏突入カプセルの設計は「流れ」から始まる
民間での宇宙旅行も計画される時代になりましたが、宇宙に出て行くのと同じぐらい地球に帰還することも、技術的には大変困難です。宇宙空間から地球へ降下する大気圏突入カプセルには、飛行制御装置などは付いていません。地球の自転速度である秒速11km程度で大気圏へ突入開始したら、空気抵抗を受けながら落下する仕組みです。特に危険なのは、猛スピードで落下するカプセル前方の空気が強く圧縮され超高温の空気プラズマになる瞬間で、1秒に満たない時間ですが、このとき、外壁がほんの少しでも溶けたら、カプセル全体が燃え尽きてしまいます。カプセルへの加熱率を予測するための学問は、「流体力学」と「プラズマ工学」という領域に含まれます。これらの理論に基づいて、カプセルの形状や熱防護材の必要量などの設計開発が行われます。
打ち上げ時の重量やコストも削減
日本が誇る小惑星探査機「はやぶさ」は無人ですが、地球外からサンプルなどを持ち帰るため、無事に帰還する必要があります。また、有人のカプセルは、宇宙飛行士を乗せて宇宙ステーションと地球を往復しています。いずれの場合も大気圏突入カプセルは、熱に強くて減速できる、丸っこい、ずんぐりした形が適しており、これは流体力学の理論上、理にかなった形状デザインです。
一方、宇宙へ行くためにロケットを使って地上からカプセルを打ち上げる際には、重量に見合った推進エネルギーが必要なので、より軽量なカプセルが望ましいです。加熱率の解析精度が上がれば、熱防護材の余計な重量を軽減でき、推進燃料や搭載量などを含めた打ち上げコストも削減できるのです。
宇宙開発に不可欠なカプセルの加熱率対策
有人カプセルで抜群の信頼性があるモデルを作り、民間人も気軽に宇宙に行ける時代にするためには、大気圏突入時の熱対策をしっかり行わなければなりません。人類が惑星探査や宇宙開発を進めていく上でカギとなるのが、地球帰還時の加熱率対策なのです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
高知工科大学 システム工学群 航空宇宙工学専攻 講師 荻野 要介 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
航空宇宙工学、流体力学、プラズマ工学先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?