食べ物の好き嫌いはなぜ起こる?

食べ物の好き嫌いはなぜ起こる?

食べた後の内臓感覚が原因に

食べ物の好き嫌いは、なぜ起こるのでしょうか? マウスを使った実験を紹介します。マウスに、甘くて、それまで口にした経験がない食べ物を与えます。マウスは甘味をもともと好みますが、初めてなので警戒して、それを多くは食べません。もしも、それを食べた後に下痢や吐き気などの不快な体験をすると、その食べ物を二度と食べなくなります。この現象は「食物嫌悪学習」と呼ばれ、その味を嫌悪する場合には「味覚嫌悪学習」と言います。マウスはもともと苦味や酸味を嫌いますが、この例のように、甘味と内臓不快感の双方を経験すると、好きであった甘味でも嫌いになる場合があるのです。人間でも同様の現象が生じます。逆に、幼いころにはコーヒーが嫌いだったけれども、成長につれて、その苦味や酸味が好きになったという人も多いでしょう。つまり、マウスにも人間にも、好き嫌いには先天的なものと、食経験によって作られる後天的なものがあるのです。味覚嫌悪学習には、脳の働きが関係しています。

味覚・感情・身体との「切っても切れない関係」

脳の「扁桃体(へんとうたい)」は、味覚をはじめ匂いや聴覚、視覚などからの情報を受け取り、それらに「好き」「嫌い」や「良い」「悪い」のような感情の評価を付ける場所です。扁桃体には内臓からの感覚情報も入ります。味覚嫌悪学習が生じるのは、味覚情報と内臓不快感の情報が扁桃体の中で関連づけて処理され、結果としてその味を「嫌う」ように脳の働き方が無意識に変わって強固な記憶が作られるからなのです。

好き嫌いは生き残るための防御策

好き嫌いに基づく食べ物の選択は、「防御行動」の一つであり、「生存戦略」とも言えます。未経験のものを食べることは、実はリスクが高いのです。味覚嫌悪学習ができる動物は、内臓不快感を生じさせる「有毒」なものは「嫌い」になるので二度と食べなくなり、結果として自分の身の安全を守れるのです。生物進化史の中で、味覚嫌悪学習ができる脳を持った動物は生き残り、進化してきたと考えられます。

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大阪大学 人間科学部 行動学科目 行動生理学分野 教授 八十島 安伸 先生

大阪大学 人間科学部 行動学科目 行動生理学分野 教授 八十島 安伸 先生

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実験心理学、脳科学、神経科学、食行動学

メッセージ

誰もが必ず持っている「脳」。脳の「学習」する働きがあるからこそ、日常のさまざまな行動が実現されています。学習というと、知識の暗記やテスト勉強のことと思うかもしれませんが、学習とは日々「生きること」に深く関わっています。学習にともなって脳は変化し、自分が変わっていきます。脳を変えることは、未来で自分が生きる世界を変えることにつながるでしょう。未来のために文章や事物をイメージして理解できる「力」とその想像や理解を言葉や行動などを通じてほかの人に明確に表現できる「力」をあなたの脳の中に育ててください。

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