ブラックホールの謎を解き明かす「マルダセナ予想」とは?
一般相対性理論が破綻する領域
ブラックホールとは、極端に強い重力によって時空を強くゆがめている存在です。物理学では、そのゆがみによって「事象の地平面」と呼ばれる領域よりも中に落ち込むと、光の速さでも外に出られないと考えられています。一方、イギリスのホーキング博士は、ブラックホールは少しずつ粒子などを放出する熱を持った存在でもあることを理論的に説明しました。極端に重力の強い状況下では、アインシュタインの「一般相対性理論」による説明が破綻するため、ブラックホールの中で何が起こっているのかを解明するのは難しいと考えられていました。
超弦理論とホログラフィック原理
物質の最小単位・素粒子を、点ではなくひものような「弦」としてとらえる「超弦理論」は、重力の量子力学的な効果を正しく記述できる理論になると期待されています。アメリカのマルダセナ教授は、超弦理論の中で「ホログラフィック原理」が実現できると予想しました。ホログラフィック原理とは、2次元の情報がホログラムのように立体的に投影されたものが3次元の存在だという考え方です。この「マルダセナ予想」から考えれば、「ブラックホールの事象の地平面付近の時空の物理」は、「弦のミクロな揺らぎを示す物理」と対応しているため、3次元空間に存在するブラックホールの熱的物理量が2次元球面である事象の地平面で計算できると推測できます。
根源的な謎を解き明かす鍵?
マルダセナ予想を検証する研究はこれまで数多く行われており、特に日本の研究では、マルダセナ予想に基づく「ブラックホールの質量と温度の関係のコンピュータでの計算値」が、「超弦理論における重力の量子力学的な効果の近似計算結果」と一致することが確認されました。
これらの研究は、ブラックホールにまつわる謎の解明だけでなく、重力の量子力学的な効果の観測・検証の可能性や、宇宙の始まりや時空の本質という根源的な課題への挑戦にもつながるのではないかと期待されています。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
茨城大学 理学部 理学科 物理学コース 准教授 百武 慶文 先生
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