国や時代を超えてつながる比較文学の世界
文学は人の心を映し出す芸術作品
文学とは、歴史書や哲学書などには記されていない、人の「心」が深く表現された芸術作品です。読者が時代や国境を超えて、作者の「心」に共感できることは、文学独特の魅力です。今を生きる日本人作家の「心」に、100年後の異国に生きる誰かが共感するかもしれないのです。文学作品の解釈に正解はありません。人によって見えている世界は異なります。自分の解釈を人に伝えたり、他の人の解釈を聞いたりすることで、文学のおもしろさはさらに深まり、視野も広がっていきます。
関連性のない作品間に見つかった共通点
異なる言語で書かれた関連性のある文学を比較し、その影響関係を研究する学問を「比較文学」といいます。しかし、こうした基本的な研究手法とは逆のアプローチも存在します。つまり、一見関連性のなさそうな文学を比較することで、共通点が見つかることもあるのです。例えば最近の研究では、日本の女流作家、尾崎翠の『第七官界彷徨』(1933年)と、イギリスの幻想童話作家、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』(1865年)に、いくつかの共通点があることが明らかになりました。作者の国籍も、書かれた時代も異なる作品でありながら、主人公の町子とアリスは、どちらも当時の女性像とは正反対の、強い探求心を抱く、活発な女性として描かれています。
進化し続ける比較文学
文学を研究するためには、その国の習慣、歴史、宗教、ジェンダーに対する考え方など、さまざまな文化について理解することが必要です。文学研究を通じて得られた文化の知見は、文学というジャンルを超えた学際的な研究にも役立てられています。また、最近では、文学作品そのものだけでなく、その作品を題材にした映画やゲームを原作と比較し、共通点や異質性を追求するといった研究も生まれています。比較文学の研究手法、研究領域は、今後ますます広がりを見せていくでしょう。
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