明治の名作文学は、無名の英語小説から?
明治のベストセラー『金色夜叉』には原作が?!
尾崎紅葉の『金色夜叉』という作品をご存じでしょうか? 絶世の美女・お宮が、大富豪に見初められ、「命に代えても」という深い愛を注ぐ婚約者の貫一を裏切る話です。その後の、貫一の復讐心とお宮の後悔までが劇的に描かれ、当時の読者を魅了します。ただ、純日本的なこの作品は実は、西洋の小説を日本風にローカライズした「翻案(ほんあん)」と呼ばれるものでした。実は『金色夜叉』以外にも、こうして海外作品をアレンジした作品は数多く、その事実は知られないまま、純日本文学として広く親しまれています。
翻案と原書の比較から
翻案作品は、そう明らかにされていないものがほとんどです。そのため、当時の日本的感覚からみると少し違和感を感じる作品を、「この作品は翻案かも」と推理していきます。ただ、原作の多くが無名の作品のため、日本にはもう存在せず、外国各地の図書館を訪れて原作を探さねばならないこともあります。
また、その作品が翻案かどうかを見定めるだけでなく、翻案を原作と比較して修正されている点や、その理由なども分析します。そこからは、時代ごとに異なる海外の文化や風習、社会規範なども読み取ることができ、ひいてはその翻案を手がけた日本人作家の思考や、当時の日本の状況なども知ることができるのです。
無限に広がる「文学」研究
面白いのは、特に「読み捨て本」と呼ばれる安価な小説が、その時代の瞬間的な流行や考えを反映していることです。そして、そうした無名の作品だからこそ、日本の作家が気軽に翻案の原作としたのですが、そうした安価で簡易な小説から多くの日本の名作が生みだされたというのも興味深い話です。今後はもっとたくさんの翻案が見つかる可能性があり、研究の余地は無限に残されているといえるでしょう。
文学は、本当に様々な領域と関連しています。将来的には、医学や政治学、社会学などの分野ともからませた多岐にわたる研究も増えるでしょう。文学は想像以上に裾野の広い学問分野なのです。
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先生情報 / 大学情報
東海大学 文化社会学部 文芸創作学科 教授 堀 啓子 先生
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