前衛芸術を通して考える、表現やコンテンツがもつ力

前衛芸術を通して考える、表現やコンテンツがもつ力

「ダダ」という芸術運動

20世紀前半、西ヨーロッパを中心に、これまでの芸術・文学表現とは一線を画すような、アヴァンギャルドと呼ばれる一連の芸術運動が生まれました。ドイツ語圏で起こった「ダダ」という芸術運動もその一つです。ダダの活動拠点は、第一次大戦中のチューリッヒで立ち上げられた「キャバレー・ヴォルテール」という芸術家酒場でした。つまり彼らの芸術は、キャバレー=酒場を舞台に、創り手と受け手のインタラクティヴなパフォーマンスの中で、即興的に創られ消費されたのです。多種多様な国籍の画家や詩人、作家が集結したダダイズム運動の根底には、人を殺める戦争を否定し、戦争に起因するナショナリズムの高まりから開放されたいという共通の思いがありました。

男性中心主義的価値観の中で

一方で、ダダをはじめ、アヴァンギャルド芸術全般には男性中心主義的な価値観が色濃く見られたことも事実です。この時代のジェンダー観の色濃い影響を受けた男性芸術家たちは、女性を、精神をもたない無の存在とみなす一方で、男性には到達できない知覚をもち、ゆえに彼らの「新たな芸術」の体現者として重用するといった、矛盾に満ちたダブルバインド的態度を見せていました。ここで興味深いのは、この運動に参加していた女性芸術家の表現方法です。近年の研究では、彼女たちがさまざまな葛藤を抱えながらも、決して表現することを諦めなかった様子が明らかにされつつあります。

表現がもつ力

現代ではジェンダー平等や性の多様性がより尊重されるようになりましたが、そこに至る歴史の裏側には女性を含むマイノリティたちの葛藤や複雑な思いがあったことは間違いありません。芸術作品という「コンテンツ」は、そうした人たちの感情や思いを表現するという側面ももっています。ダダという反戦的な表現運動と、そこにあったジェンダー観、そして女性芸術家たちの関与の実態を調査して学術的に考えることは、旧来の価値観を断ち切り、新しい表現やコンテンツを生み出す上でも非常に重要な意味をもっているのです。

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先生情報 / 大学情報

上智大学 文学部 ドイツ文学科 教授 小松原 由理 先生

上智大学 文学部 ドイツ文学科 教授 小松原 由理 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

美学、芸術論、ジェンダー論、ドイツ文学

先生が目指すSDGs

メッセージ

芸術や文学の歴史を大学で学んで何の役に立つのか、という問いをあなたは抱えているかもしれません。しかし、技術と経済の論理だけを追求しても、決して人間社会の根本的な問題解決はできません。そのことに直面し、人文学の学びの大切さを痛感させられているのがこの21世紀です。人間が幸せであるとはどのようなことか。人間はいかに理想の「個」と「社会」を追求し、それを表現してきたのか。芸術文化・文学の学びを通して、過去の人間たちの営為を知ることで、次世代社会をデザインするために不可欠な視点を得ることができるのです。

上智大学に関心を持ったあなたは

日本初のカトリック大学として開学し、創立当初から国際性豊かな大学として、外国語教育に重点を置いてきました。留学制度も充実しており、世界約80ヶ国に390校以上にも及ぶ交換留学・学術交流協定校があり、コロナ禍の2020年度、2021年度を除き、毎年約1,000人の学生が世界の様々な国や地域へ留学しています。また、少人数教育も本学の伝統のひとつです。教員と学生の距離が近く、また学生同士が率直に意見を交し合う、きわめて理想的な教育環境が整っています。他者を思いやり、社会に奉仕できる人材を育成します。