比較・対比で見えてくる芸術作品・文化事象の生成・伝播・変容
比較文学・比較文化とは?
比較文学・比較文化の「比較」は研究方法を表します。複数の国や地域の文学、マンガ、音楽、科学など、さまざまな芸術分野や文化事象を「比較」「対比」しながら、それらの特徴をとらえます。フランス語文学のゴーチエの作品が、日本語文学の芥川龍之介の作品にどのような「影響」を与えたのか、また、芥川がゴーチエから何を「受容」したのかについて研究したり、影響・受容関係がなさそうな複数地域の作品同士を対比させ、文化論的に研究したりします。
ファム・ファタル(宿命の女)
複数の地域に伝播した芸術潮流の相互交流も研究対象です。19世紀末には、モローやクリムトなどが、男性を虜にし破滅へと導くファム・ファタルを題材とした作品を発表します。ワイルドの『サロメ』やビアズリーが描いた挿絵も、この潮流の中で作られた作品です。また、19世紀には欧米でジャポニスムという芸術潮流が流行していました。ビアズリーの『サロメ』の挿絵にも浮世絵の影響が伺えます。このビアズリーの挿絵に影響を受けたのが水島爾保布(におう)で、彼は谷崎潤一郎の『人形の嘆き』に挿絵を描いています。これらのことを踏まえて、谷崎の『人形の嘆き』を研究することもできます。
ゴーチエ、ハーン、芥川―『死霊の恋』の変容
日本近代作家には、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の英語翻訳を介して、フランス文学に触れた者がいます。ゴーチエがフランス語で発表した『La Morte amoureuse(死霊の恋)』を、ハーンは英語に翻訳し(『Clarimonde』)、芥川はハーンの英語翻訳を翻訳して『クラリモンド』を発表します。ゴーチエやハーンの翻訳での「胸が剣で貫かれている悲しみの聖母」が、芥川の翻訳では「男の胸を剣で貫く」ファム・ファタルのように表されています。その後、芥川は『死霊の恋』によく似た『天狗』を発表します。ゴーチエの原作、ハーンの翻訳、芥川の翻訳を比較することによって、三者それぞれの特徴がはっきりと見えてきます。
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先生情報 / 大学情報
山口大学 国際総合科学部 国際総合科学科 准教授 藤原 まみ 先生
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