高エネルギー原子核衝突における理論が示す「宇宙の始まりはしずく」
陽子と中性子を構成する素粒子は?
「素粒子」とは、物質を分解していったときに、それ以上分解できなくなった「最小構成要素」のことです。
物質のおおもとである原子の中心には原子核があり、それを分解すると陽子と中性子になります。陽子、中性子はそれぞれ、「クォーク」と呼ばれる複数の素粒子と、クォーク同士を結び付ける「グルーオン」という素粒子でできています。
クォーク・グルーオン プラズマ
素粒子のクォークとグルーオンは「強い力」で結びつき、通常は陽子や中性子などに閉じ込められています。それが高温・高密度(高エネルギー)では結びつきが切れ、陽子や中性子から飛び出して「クォーク・グルーオン プラズマ(QGP)」という状態になり、気体分子のように飛び回っていると考えられてきました。この予測を検証するための数々の実験が行われてきました。そして2000年代から始まった、イオンを光に近い速さで衝突させ、飛び出した素粒子を分析する「高エネルギー重イオン衝突実験」で、QGPは気体ではなく、液体のようにふるまうと考えられるようになりました。
「宇宙の始まりはしずく」を裏付ける理論
こうした実験で起こった現象や得られたデータの理解のために、複数の既知の方程式を組み合わせ、その現象を説明する理論を構築します。最新の理論では、それまでは考慮されていなかった粘性や電磁場に関する方程式を組み合わせました。それにより、実験で起きた「素粒子(QGP)が液体のようにふるまっている」ことを、さらに正確に説明できるようになったのです。
宇宙の始まり「ビッグバン」は、素粒子が、高エネルギー重イオン衝突実験と同様の高温・高密度の状態にあったと考えられています。つまり、「QGPは液体である」という理論を当てはめると、「宇宙の始まりはしずく」と言い換えられます。さらに、この理論は、現在、大きな謎となっている中性子星の内部構造解明のきっかけになる可能性も秘めているのです。
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先生情報 / 大学情報
広島大学 理学部 物理学科 教授 野中 千穂 先生
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先生への質問
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