マーガリンをめぐる温度との戦い ~常温で固める技術とは~
マーガリンの原料である植物油脂は硬化しにくい
マーガリンとバターは似ているように見えますが、その違いを知っていますか? マーガリンは、バターの代替食品として開発された加工食品です。原料は植物油脂です。ところが、植物油脂は常温では動物油脂と違って液体になります。これは分子構造で言えば、炭素同士が二重結合部分を持っているためで、この結合部分が曲がっている(シス型)ために分子が集合しにくく、結晶化しにくいのです。これに対し、バターのような動物油脂には二重結合がないため分子が直線的(トランス型)で結晶化しやすく、常温でも硬化します。
植物油脂を動物油脂に近い分子構造に変える
そこで、植物油脂を常温で硬化させるために、シス型の結合を直線的なトランス型に変えるという方法が考えられました。それを可能にしたのが、植物油脂に水素を添加する「水素添加法」です。トランス型は動物油脂の分子構造に近く、常温で硬化します。近年まではこの方法でマーガリンは製造されていました。ところが、この製造過程でできるトランス脂肪酸が体に悪いという議論が欧米を中心に起こりました。トランス脂肪酸を取り除くことは難しいために、各国は何らかの対応を迫られ、米国は2006年からトランス脂肪酸量の表示を義務づけました。
新たに採用されたパーム油の問題点は粗大結晶
それ以来、水素添加法は下火になりました。しかし、植物油脂を常温で硬化させるという課題は残っています。そこで採用されたのが、高融点の植物油脂であるパーム油を配合するという方法です。現在この方法はマーガリン製造方法として一般的ですが、使用しているうちに「つぶつぶ」が出てくるという問題があります。これは、冷蔵庫への出し入れによる温度変化で結晶化が早まるために起こります。このつぶつぶは二重構造になっている粗大結晶と言い、中心に融点の高い核があります。そのまわりにパーム油の主成分であるPOPが集まっていることが研究の結果わかっています。
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先生情報 / 大学情報
広島大学 生物生産学部 生物生産学科 教授 上野 聡 先生
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