ゼニゴケが食糧問題を救う? 植物の細胞分化の仕組みを追う

ゼニゴケが食糧問題を救う? 植物の細胞分化の仕組みを追う

分裂組織の細胞は何にでもなれる

植物の茎や根の成長点や維管束の形成層など、分裂能力を保持する細胞(幹細胞)からなるのが分裂組織です。植物幹細胞は何にでもなれる細胞で、分裂を繰り返して葉や花などのさまざまな器官に分化します。未分化な幹細胞が葉になったり花になったりするときには、どのような因子が影響し、どのように調節されているのでしょうか。

優れたモデル生物

ゼニゴケは、遺伝子機能の解析がしやすいモデル生物として、近年研究者の間で注目されている植物です。同じくモデル生物として一般的なシロイヌナズナなどは染色体を2セット持つ2倍体ですが、ゼニゴケの主な姿である葉状体は1倍体です。そのため、ゼニゴケの遺伝子の一部を改変すれば、遺伝子型がそのまま表現型となり、すぐに影響がわかります。また、クローンでも増えるため、遺伝的に均一なゼニゴケを大量につくれます。
例えばシロイヌナズナなら、1つの遺伝子を改変した結果を観察するのに6カ月ほどかかりますが、ゼニゴケを使うとわずか2カ月ほどで済みます。早いサイクルで研究を進められる、非常に優れたモデル生物なのです。

陸上植物の分化調節の仕組み

これらのモデル生物を使った研究により、茎の先端でも根の先端でも、分裂組織で細胞の分化を調節しているのは類似の物質であることがわかってきました。細胞の分化を促進する物質と、未分化のままでいることを促進する物質の両方が存在し、そのバランスで植物の成長を調節しているのです。また、被子植物のシロイヌナズナとコケ植物のゼニゴケで、分化を調節する同じ仕組みがあることもわかりました。つまり、まったく違う体のつくりをしていても、体の部分が違っても、陸上植物の細胞分化を調整している仕組みは普遍なのです。
今後、ゼニゴケを使った研究が進んでいけば、植物の構造への理解が進み、品種改良にも役立つでしょう。収量の多いコメや、多くの実がなるトマトなどができ、食糧問題を解決できるようになるかもしれません。

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広島大学 理学部 生物科学科 教授 平川 有宇樹 先生

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植物分子・生理科学、進化生物学

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