「インサイダー情報」という儲け話と法の解釈
インサイダー取引とは
会社の株価は需要と供給のバランスで決まります。需要の増減は、投資家がその会社の業績や将来性を予想した結果生じます。会社の関係者は、そのような重要情報をいち早く知ることができる立場にあります。そのため、会社の関係者が、株価に影響するような未公開の情報を知ったうえで株を売買する行為は「インサイダー取引」と呼ばれ、金融商品取引法で禁止されています。
「インサイダー情報」を聞いたのか
2006年に、ニッポン放送の買収をめぐり、投資ファンド代表者のM氏が金融商品取引法違反で逮捕された「村上ファンド事件」があります。当時、ライブドアの社長だったH氏らが、「フジテレビを傘下に持つニッポン放送を買収したい」と語るのを聞いたM氏が、ニッポン放送株の売買をした行為がインサイダー取引とされたのです。裁判でM氏は、「話は聞いたが、本当に買収するとは思っていなかった」などと主張し、どの時点でライブドアによるニッポン放送株買集めの決定があったかが争点になりました。最高裁は「株式買集めの実現可能性が具体的に認められることは要しない」として2011年に有罪とする判断を下し、大きく報じられました。
証券市場の成長のためには
最高裁の決定前後、インサイダー情報の決定時期について学者や弁護士の間で盛んに議論がなされました。買収の資金調達も不確かなような構想段階の話がインサイダー情報と認定されると、投資家は罪に問われるリスクを恐れてしまい、取引が委縮する可能性があります。一方で、株の買集めが実現する可能性が極めて高い段階になるまではインサイダー情報ではないとすると、それ以前に悪意のもと株取引をした人たちを逃してしまう恐れもあるのです。
インサイダー情報の決定時期をめぐっては、村上ファンド事件の最高裁決定から10年以上経った今も、裁判で争われることがあります。公正で健全な証券市場の成長のためには、どのような法解釈であるべきなのかが揺れ動くなかで、その判断の枠組みに対する研究の重要度も高まっています。
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