刑事罰を科せられない? 国をまたいだ不公正取引の取り締まり

刑事罰を科せられない? 国をまたいだ不公正取引の取り締まり

取り締まりの3つの手段

証券取引の不公正を取り締まる行政機関は、世界各国にあります。取り締まりの手段は3つです。罰金や懲役刑がある「刑事手続」と、行政機関が裁判を起こす「民事手続」、そして、行政機関の中で処分を決める「行政手続」です。この3つのうち何を使えるかは、国によって違います。日本の金融庁は民事手続が使えませんし、刑事手続だけの国も多くあります。その違いを知り、どうすれば国をまたいだ問題を解決できるのかという研究が行われています。

出張費の方が高い?

日本の証券取引を見ると、半分以上は海外からの注文です。インサイダー取引などの不公正取引が行われたとしても、いきなり他国に乗り込むわけにはいかず、まずはその国に協力を依頼する必要があります。しかし、法律や各国の姿勢の違いから思わぬ事態が生じることがあります。
例えば、小さなインサイダー取引は見逃して、悪質な事件に絞って取り締まるという国もあります。実際に日本の担当官が協力を求めに出向いたところ、調査対象者が不当に得た利益の金額よりも担当官の出張費の方が高いのではないかと、不思議がられたことがありました。また、香港とアメリカの間で起きた重大事件では、アメリカが先に刑事罰を課したため、香港は刑事処分できませんでした。仮に香港が先だったら双方が刑事罰を課せたのです。同じ犯罪について国際的な「二重処罰」を禁じた香港と、国を越えた場合は認めるアメリカの立場の違いから、矛盾が残った例です。

証券市場を良くするには

国をまたいだ取引は増えていく一方です。日本も属する国際機関「証券監督者国際機構(IOSCO)」では、相手国の要請に応じて調査に協力するという大枠が作られています。しかし、どちらが先に刑事罰を科すか、情報提供に法的な制約がかかったらどうするかなど、多くの問題の具体的な対応策の整備はこれからです。資金調達をする企業や投資家にとって、安心して取引できる公正な証券市場にしていくために、国際的な協力に関する研究が深まることが求められています。

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名古屋商科大学 経済学部 総合政策学科 教授 山本 雅道 先生

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メッセージ

私はニューヨーク州の弁護士ですが、学生時代から目指していたわけではありません。経済学部卒業後にもう少し学んでみたいという漠然とした理由で法学部に学士入学したことが、結果として企業での国際法務担当、留学、さらには国際的な弁護士としてのキャリアにつながりました。将来の明確なイメージが持てなくても、自分を広げようとする思いが思いもよらないキャリアをつくることはあり得ます。本当に学び、成長できるような大学を、他人の評価にとらわれず、実際に大学の雰囲気や先生・先輩に接してみて、ぜひ自分で見つけてください。

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