講義No.14169 生物学 医学

神経変性疾患の予防・治療に光明? 神経細胞を守る分子を追え!

神経変性疾患の予防・治療に光明? 神経細胞を守る分子を追え!

記憶や全身運動をかなえる脳の仕組み

人間の様々な生命活動や意識的な行動をつかさどる脳は、神経細胞が複雑につながり合ったネットワークの働きによって、その機能が成り立っています。神経細胞同士は、シナプスと呼ばれる接続部分でアセチルコリンやGABA、ドーパミンなどの神経伝達物質をやり取りして情報の伝達を行っています。この仕組みがうまくいくことで、最終的に記憶や筋肉の動作、全身状態の調節などを適切に行えるのです。

神経細胞に異常が生じると

神経細胞は、一定の刺激が加えられると興奮し、次の神経細胞に向けてシナプス末端から神経伝達物質が多量に放出されます。この繰り返しが記憶や学習の定着などにつながります。しかし、神経細胞は非常に弱い存在で、強い刺激が続くとそれだけで死んでしまいます。神経細胞は、一度死んでしまうと再生させることはできません。神経細胞が失われると、アルツハイマー病やパーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症などの「神経変性疾患」を発症してしまう可能性が高まります。

神経伝達物質の量を調節する分子

近年、E3ユビキチンリガーゼという酵素の働きをもつ、「SCRAPPER」という分子に着目した研究が進められています。この分子は、グルタミン酸が放出される量を適切に保つ働きがあることがわかってきました。グルタミン酸はアミノ酸の一種ですが、記憶や学習などに重要な役割を果たす神経伝達物質としてもはたらきます。また、SCRAPPERが生まれつき機能しないマウスを人工的に作り出したところ、マウスが早期に死んでしまう事例が相次ぎました。このことから、SCRAPPERは脳内だけでなく、全身の生命活動に重要な役割を担っていることが推察されます。
SCRAPPERの働きをさらに解き明かしていくことで、神経変性疾患の発症メカニズムの解明や治療法の確立につながることが期待できます。あらゆる人が長く健康な脳を保ち、生き生きと活躍できる社会をいずれ実現できるようになるかもしれません。

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関西学院大学 生命環境学部 生命医科学科 教授 矢尾 育子 先生

関西学院大学 生命環境学部 生命医科学科 教授 矢尾 育子 先生

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脳神経科学、生化学、バイオイメージング

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メッセージ

大学進学を考えるにあたってたくさんの情報を集めると思います。その後、最終的に決めるのは自分自身です。周囲に意見を求めたとしても、最後は自分の気持ちに正直になりましょう。好きだと感じて興味の湧く分野にチャレンジする方が、きっと充実した大学生活を送れるはずです。また、大学では視野を広く持って学んでください。周辺領域まで学ぶことで、自分の学びと社会とのつながりがわかり、学問や研究に取り組む意義を感じられるでしょう。これからの日々が、より充実したものとなるよう願っています。

先生への質問

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スクールモットーである"Mastery for Service"は、「奉仕のための練達」と訳され、関西学院の人間として目指すべき姿を示しています。1889年にアメリカ人宣教師W.R.ランバスによって創立された関西学院は、このスクールモットーを体現する、世界市民を育むことを使命とし、現在、関西学院の3つのキャンパスでは、約2万人の学生が個性あふれる14学部で学んでいます。2021年4月からKSC(神戸三田キャンパス)は文系の総合政策学部と理系の理、工、生命環境、建築学部の5学部体制となりました。