神経変性疾患の予防・治療に光明? 神経細胞を守る分子を追え!
記憶や全身運動をかなえる脳の仕組み
人間の様々な生命活動や意識的な行動をつかさどる脳は、神経細胞が複雑につながり合ったネットワークの働きによって、その機能が成り立っています。神経細胞同士は、シナプスと呼ばれる接続部分でアセチルコリンやGABA、ドーパミンなどの神経伝達物質をやり取りして情報の伝達を行っています。この仕組みがうまくいくことで、最終的に記憶や筋肉の動作、全身状態の調節などを適切に行えるのです。
神経細胞に異常が生じると
神経細胞は、一定の刺激が加えられると興奮し、次の神経細胞に向けてシナプス末端から神経伝達物質が多量に放出されます。この繰り返しが記憶や学習の定着などにつながります。しかし、神経細胞は非常に弱い存在で、強い刺激が続くとそれだけで死んでしまいます。神経細胞は、一度死んでしまうと再生させることはできません。神経細胞が失われると、アルツハイマー病やパーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症などの「神経変性疾患」を発症してしまう可能性が高まります。
神経伝達物質の量を調節する分子
近年、E3ユビキチンリガーゼという酵素の働きをもつ、「SCRAPPER」という分子に着目した研究が進められています。この分子は、グルタミン酸が放出される量を適切に保つ働きがあることがわかってきました。グルタミン酸はアミノ酸の一種ですが、記憶や学習などに重要な役割を果たす神経伝達物質としてもはたらきます。また、SCRAPPERが生まれつき機能しないマウスを人工的に作り出したところ、マウスが早期に死んでしまう事例が相次ぎました。このことから、SCRAPPERは脳内だけでなく、全身の生命活動に重要な役割を担っていることが推察されます。
SCRAPPERの働きをさらに解き明かしていくことで、神経変性疾患の発症メカニズムの解明や治療法の確立につながることが期待できます。あらゆる人が長く健康な脳を保ち、生き生きと活躍できる社会をいずれ実現できるようになるかもしれません。
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先生情報 / 大学情報
関西学院大学 生命環境学部 生命医科学科 教授 矢尾 育子 先生
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