光の波長よりも小さい、タンパク質の動きを観測するには?
タンパク質は精巧な装置
生物は細胞の集まりでできていて、その細胞は設計図通りに作られた精巧な部品で構成されています。重要な部品の一つであるタンパク質は、アミノ酸と呼ばれる分子が結合してできた装置です。アミノ酸配列と立体構造の違いにより、複数種のタンパク質が存在し、種類ごとに免疫や細胞分裂といった機能を担っています。
タンパク質の動きを観測できる蛍光顕微鏡
タンパク質の種類の一つに、分子モーターと呼ばれるものがあります。生物の「動き」に関わるもので、食べ物から得たエネルギーを力のエネルギーに変える機械です。分子モーターのサイズはおよそ10ナノメートルと、可視光線の波長よりもはるかに小さいため、光学顕微鏡では観測できません。電子顕微鏡では観測できますが、タンパク質を乾燥させる必要があり、それでは水の中で動いているタンパク質の本当の姿は見えません。そこで、タンパク質を蛍光塗料でマーカーし、光らせることで観測を可能にする蛍光顕微鏡が日本で開発されました。背景光をできるだけ減らした全照射型の蛍光顕微鏡により、分子モーターが一方向に正確に回転していることなどがわかりました。
物理学の知識を活用して生物を研究する
蛍光顕微鏡を作るためには、物理学の知識が必要です。蛍光顕微鏡を使って分子モーターの動きを調べるためにも、物理学の知見が欠かせません。このように、物理学の知識を活用して生物を研究する分野が生物物理学です。タンパク質以外にも多様な研究テーマがあり、世界中で盛んに研究が進められています。
人間は、とても複雑な機械を作ることや、ロケットのように巨大なものを宇宙に飛ばすことができる一方で、小さなバクテリア1個体すら作れません。タンパク質の動きは観測できても、簡単な原子で作られた微小な機械がなぜすごい働きができるのかは、まだ解明されてはいないのです。生命の不思議を知るために、純粋な知的好奇心に基づいた研究を進めていく必要があるのです。
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