化学合成は自然を超える! 植物から画期的な薬をつくる研究

植物の恩恵を薬に生かす
植物を薬として使う民間伝承は世界中にあります。そうした植物に含まれる、知られていなかった薬効成分の分子が次々に特定されたり、すでに特定されているものにも新たな機能が見つかったりと、植物を薬に生かす研究はますます盛んになっています。
それを支えているのが、化学合成の技術です。植物には、窒素を含む独特の構造をした「アルカロイド」という種類の分子が含まれます。それが人体に入るといろいろな作用を起こすため、薬の元となります。アルカロイド系の分子を人工的に合成する技術が開発されたことにより、もともと植物由来だった薬の開発がスムーズになりました。
自然の力を超える薬
アルカロイド系分子の化学合成のメリットの一つは、植物採集の手間をかけずに、実験の材料を豊富に得られることです。また、自然に存在する分子に薬効を強化する分子をつなげたり、逆に悪影響となる部分を切り取ったりもできます。それにより、自然の力を超えたより効果的な薬をつくることができます。また、分子のいろいろな部分を切り取りながら実験することで、どの部分が効いているかを特定できて、薬の設計に役立ちます。
副作用が少ない鎮痛薬
こうした技術の成果の一つとして、生薬「ゾクダン」の例があります。昔から「骨をつなげる」と言われてきたこの生薬に破骨細胞を抑制する分子が含まれていることが突き止められ、骨粗しょう症の薬として生かす研究が始まっています。
また、モルヒネに替わる鎮痛剤の開発も進んでいます。「葉っぱをかむと重労働でも疲れなくなる」と言われる植物が東南アジアにあり、その成分を合成して実験を繰り返した結果、確かに鎮痛作用があるとわかりました。現在、がんの痛み止めに使われているモルヒネ注射には、依存症や腸の機能の低下などの副作用がありますが、この植物の成分はそうした副作用がモルヒネに比べて格段に少ないこともわかっています。また、注射でなく口から接種可能な錠剤にできるため、患者の負担が下がることも期待されています。
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千葉大学薬学部 教授石川 勇人 先生
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創薬科学、天然物化学、有機合成化学先生が目指すSDGs
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