なぜメダカで? 多様な性決定遺伝子の不思議
性別を決定する遺伝子
生物の雌雄、つまり性別の決定様式は、遺伝によって決められる「遺伝性決定」と、環境によって決められる「環境性決定」の2種類に大別されます。そのうち、遺伝性決定において重要な役割を果たすのがXY型やZW型に代表される性染色体です。哺乳類では、Y染色体にあるSRYが性決定遺伝子として働くことが知られていました。一方、哺乳類以外の脊椎動物では性決定遺伝子の実体が長らく不明なままでしたが、SRYに次ぐ2例目の性決定遺伝子としてメダカでDmyが同定されました。
独自の性決定遺伝子をもつメダカ近縁種たち
メダカ属に含まれるメダカの近縁種はアジアに固有で、40種類ほどが知られています。ヒトやマウスの研究から同定されたSRYが哺乳類に共通の性決定遺伝子であったのとは対照的に、メダカのDmyはほとんどの近縁種で見つかりませんでした。さらに、その後の研究から、メダカ近縁種にはXY型とZW型の性決定様式が混在し、性染色体も種ごとに異なることがわかってきました。このことから、メダカ属では進化の過程で新規の性決定遺伝子が次々と生まれ、性染色体を頻繁に交代してきたと考えられます。
性染色体が多様化してきた仕組みの解明へ
彼らから新規の性決定遺伝子を見つけるには、まず遺伝学やゲノムミクスの手法を用いて候補となる遺伝子を探索し、それが本当に性決定に関与するかどうかを分子生物学やゲノム編集の技術を使って検証します。さらに、どのような遺伝子に、どのような変化が生じて性決定遺伝子になったのかを解明することで、性決定の仕組みそのものだけでなく、性染色体やが多様化してきたメカニズムも明らかにすることができるはずです。
1億年もの間、同じ遺伝子を使い続ける哺乳類に対し、性決定遺伝子を短いサイクルでコロコロと変えてきたメダカ属魚類は、このような研究にうってつけの材料です。ここから脊椎動物全体における性決定や性分化の仕組みだけでなく、種分化と性染色体の関係についても重要な知見が得られることが期待されます。
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