SDGsにつながるか 卵子凍結保存の技術開発
未来につながる卵子凍結技術
動物を取り巻く現状には、希少動物の絶滅の危機、ペット業界の無計画な大量繁殖によって行き場を失った動物の殺処分、盲導犬不足など、課題が山積しています。これらの解決方法のひとつに、生殖補助技術の開発があります。
卵子を凍結保存し、必要なときに体外受精を行い、受精卵を母体に戻すという技術です。受精卵や、成熟した未受精卵の凍結保存技術は年々精度が上がっています。しかし、排卵する前の卵巣内の卵子の凍結保存については、まだ技術が確立されていません。これが可能になれば、卵巣を摘出することになっても出産が可能になります。
安全性を確保し、イヌの出産に成功
卵巣内の卵子は、染色体が卵核胞で保護されているものの、凍結や融解の際に傷ついてしまいます。その原因の解明と検証を繰り返して、凍結保存の安全性を高めていきます。卵巣内にある卵子は成熟していないため、培養して育てる必要もあります。また、凍結保存した卵子から生まれる子に異常がないか、遺伝子に変化が起きていないかをチェックすることも重要です。
こうした研究の結果、イヌの凍結した受精卵から出産に成功しています。盲導犬は、訓練を受ける前に避妊手術をするため、優秀な盲導犬を残すのは難しいとされてきました。しかしこの方法を発展させ、摘出した卵巣内の卵子を使うことで子孫を残すことが可能になります。
人間や畜産にも貢献できる
この技術を用いれば、ウシなどの畜産でも優秀な種を残すことができます。優秀な種の生産性が向上すれば、全体の畜産頭数を減らすこともでき、メタンガスの発生を抑えられることから、SDGsにも貢献できます。
繁殖は自然にできるものとされてきましたが、現在はそれでは成り立たなくなっています。まず、技術の精度を高めることから、新しい未来が始まります。人間なら、若い女性のがん患者も、放射線治療前に卵子を凍結すれば、将来子どもを持つ可能性を残せます。不妊治療においても、選択肢を増やすことになるのです。
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先生情報 / 大学情報
県立広島大学 生物資源科学部 生命環境学科 生命科学コース 准教授 阿部 靖之 先生
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