昆虫の脳のメカニズムを探る

昆虫の脳のメカニズムを探る

無視できない虫の話

地球上で一番繁栄している動物は昆虫です。哺乳類が約4,500種なのに対し、昆虫は100万種ほど生息しています。
昆虫は、外気の温度変化によって体温が変わる変温動物です。気温が下がると餌を捕ることもままならず生きていけないので、厳しい冬の時期は活動を停止する「休眠」状態になってやり過ごすものがいます。その休眠時期を調節すると考えられるのが昆虫の「脳ニューロン(神経細胞)」です。

ルリキンバエのライフサイクル

日本では北海道に生息するルリキンバエの脳ニューロンを探ってみましょう。ルリキンバエは比較的体の大きなハエで、夏の間だけ卵から幼虫、蛹(さなぎ)、成虫、そしてまた卵というライフサイクルを繰り返します。冬前になると成虫のまま休眠に入り、春が来たら活動を再開します。気温が低くなり、日長(明るい時間の長さ)が短くなると休眠に入りますが、彼らは感じ取った気温と日長の変化をどのように脳内で処理しているのでしょうか?

環境適応は脳ニューロンの仕事

ルリキンバエのメスは、秋の気温と日長を受けると卵巣を発達させず休眠に入ることがわかっています。そこで、非常に小さな針を使って手術によりメスの脳ニューロン除去し、次の実験を行います。
脳間部という場所のニューロンを除去したAと、脳側方部にあるニューロンを除去したB、手術をしないCのグループに分け、それぞれ休眠期に入る秋の気温と日長、休眠から覚め活動期に入る初夏の気温と日長に10日間ほどおきます。すると、Aは気温と日長に関係なく卵巣が発達しません。反対にBは気温と日長にかかわらず卵巣が発達し、Cは通常通り、初夏の気温と日長では卵巣が発達して秋の気温と日長では卵巣が発達しませんでした。つまり、卵巣の発達には脳間部のニューロンが必要であり、休眠には脳側方部のニューロンが深く関わっているのです。
ともすれば嫌われがちな昆虫ですが、精巧につくられた脳を持っています。その仕組みを探ってみると、たくましく環境に適応して生きている様子がわかるのです。

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大阪大学 理学部 生物科学科 教授 志賀 向子 先生

大阪大学 理学部 生物科学科 教授 志賀 向子 先生

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生物学、動物生理学

メッセージ

もし、あなたが生物学や動物生理学の分野に興味があるなら、生命そのものに対して「不思議だな」「面白いな」「なぜそのような仕組みなのかな」と思う気持ちを大切にしてください。サイエンスは少し推理小説と似ているところがあります。推理小説は、犯人探しのために証拠を集め、筋道を立てて真相を突き止めます。サイエンスも何か興味深い現象を見つけたら、実験結果を集め、論理を構築し、その仕組みを解き明かしていくのです。このような「ナゾ解き」を楽しめるなら、あなたはこの分野に向いていると思います。

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